溶接を主体とする組立品の部・銀賞

『燃焼筒』
株式会社高村興業所
(広島県佐伯郡)
(写真1) 有毒ガスを処理するための燃焼装置の一部。半導体の製造工程で使用する。    
 
 
賞製品は、半導体の製造工程で使用する有毒ガスを処理するための燃焼装置の一部である。薄板の板金加工に特化してきた同社ならではの製品だが、受注のキッカケとなったのはいち早いYAGレーザー溶接機の導入(1997年12月)であった。
 「新しい機械を導入すると、その機械でなければできない製品が受注できるようになる。加工製品・技術の需要と、導入機械がうまくリンクして受注したのが受賞製品ですが、難度の高い加工技術が求められる上に、1ロット10個をつくらなければならないということで、最初の1年間はまさに試行錯誤の連続でした。今回の受賞は、その取り組みが正当に評価されたという意味で、感慨もひとしおです」(高村正和社長)
 素材はSUS304、板金部分の板厚はすべて0.6mm、要求精度は±0.2mm。
 
(写真2)
 

(写真3)
  品化にあたっては板金加工と機械加工をドッキングさせており、6つの円筒で構成されている(突起物のついた部分が機械加工による削りだし)。加工順序は、以下の通り。
@NCTによる平板の穴あけ・外形切断の後、ロール巻き機で円筒状にしてTIG溶接する。
Aロールの開口部をヘラ絞り。
B次に六つの円筒をYAGレーザー溶接機により接合して重ね合わせ、組み立てていく。しかし板金加工品だけの溶接では、精度に限界があるために、接合部分にはスペーサー(旋盤によって削りだしたもの)をかませ、ろう付けすることにより精度を高めている。

 
工にあたっては、クリアしなければならない難題が二つあった。一つは、同芯度の問題である。円筒を順々に重ねていく際、必然的に6点の円筒の中心点(同芯度)は同じでなければならないからだ。
 「中心の位置決めが、円筒ということもあり時間もかかったし、最も難題だった。ところがあるとき、現場の社員から"五重塔方式"というアイディアが出てきた。確かに五重塔は、中心に一本の芯棒が通っている。後は同芯度を出すための治具を考え出すだけ。しかしそこにたどり着くまでは、本当に大変な作業の連続でした」(高村隆晴専務取締役)
 もう一つはYAGレーザー溶接機による溶接と真空ろう付け。裏側へのろうの漏れだし、溶接による歪みをなくすための取り組みもまた難題であった。特に溶接後の歪みは修正が効かないため、歪みをなくすことが絶対条件だった。最終的には、銀ろうの純度を高めること、溶接の火力を調整することによってクリアした。
 結果的に、同芯度をだす治具の考案、ろう付けのノウハウ、さらにはYAGレーザー溶接機の存在がこの製品の量産化を可能にしたのである。
 ちなみに受賞製品の燃焼筒を初代とすると、現在、加工しているそれは5代目。素材の見直しから、燃焼効率のよい製品形状、さらには歪みを全く出さない技術の高度化等々、一段と進化を果たしている。

 
(写真4)

(写真2、3、4) 6つの円筒で構成されている。開口部はヘラ絞り、接合部にはスペーサーをかませ、ろう付けすることにより精度を高めた。
 

(写真5) 治具を独自に考案して、6点の円筒の中心点(同芯度)を割り出している。
  社が現在取り組んでいる課題は、ISO9001の認証取得(目標は2002年12月)と生産管理システムの構築である。製品が営業マンという考え方を一歩進めて、新たな営業展開もまた考慮中である。
 そして何よりも驚かされるのが、社員の平均年齢が27.6歳という、若い集団が同社の技術を支えていることだろう。さらに昨年(2001年)は10名、今年(2002年)は7名の新卒者を採用するなど(中途採用はゼロ)、次代を視野に入れた人材育成にも怠りがない。
 「今年もフェアには出品します。出品製品は、いってみれば現場で苦労している若い人の技術メッセージ、多くの人にその技術を見てもらいたいからです」(高村正和社長)
     

株式会社高村興業所
本 社 広島市南区皆実町1-8-25
宮島工場 広島県佐伯郡大野町下更地1790-1
TEL 0829-56-1141
創 業 1949(昭和24)年10月
設 立 1961(昭和36)年9月
代 表 者 高村正和
資 本 金 3000万円
社 員 数 59名
事業内容 半導体製造装置部品、印刷機のカバーなどの精密板金加工・機械組立・部品加工など
E-mail takamura@takamura-kk.co.jp
 
受賞製品を前にした高村正和社長(右)と高村隆晴専務