IT活用インタビュー

2007/6
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取引先300社へ



株式会社浜野製作所
代表取締役   浜野 慶一氏
住所   東京都墨田区八広4-39-7
TEL   03-5631-9111
従業員数   37名
URL   http://www.hamano-products.co.jp

昭和43年に先代社長が金型製作を開始、昭和53年に法人登記し金型製作からプレス板金の試作なども手がけるようになる。父親の急逝により平成5年・29歳の時に2代目社長に就任。社長は大学卒業後、他の板金工場に勤めた経験を持つ。後任社長を引き受けた時はバブル崩壊で景気はどん底、取引先は3社しかなかったそんな中、もらい火により工場が全焼した。

 産官学連携事業に応募

試作品・半導体関連部品
【素材】SUS 304 #400 t=1.0

▲試作品・半導体関連部品
【素材】SUS 304 #400 t=1.0
 再建に奮闘している矢先、墨田区が早稲田大学と提携、区内にある中小企業と産学連携事業を推奨していることを知る。区内には中小製造業が1万社ぐらいあったが、現在は3.8〜4千社になってしまい、区としてはもう一度、中小製造業を活性化する目的で産学連携を推進していた。2002年に区内の企業3社が早稲田大学で行われたヒヤリングに参加し、産官学連携の事業を進めることになった。もともと区内の中小企業の85%が従業員10名以下の小規模零細企業であり、同社も墨田中小製造企業のモデル工場として認定された。

 アイデアで売上が10倍

▲1人1台ずつのPCとvFactoryで表示された画面(上部)
2003年に半年間、早稲田大学のビジネススクールへ通う。そこには経営学修士(MBA)を取得するために30〜40代の銀行員や大手企業の社員などが企業から派遣されていた。スクーリングが終わり今度は産官学連携テーマをリサーチするため、早稲田の学生3人が手弁当で同社に訪れるようになった。そして彼らと共に立ち上げたのが同社のインターネットホームページ(HP)。学生からは、「外部の人に知ってもらうためにHPを作りましょう」と提案、実行。しかし、HPを立ち上げても閲覧するのは社員などの身内だけで外部からの反応は皆無。今度は一橋大学の学生がSEO(サーチエンジン対策)をしようということで話し合いを持ちヒット率を上げることが出来た。HPを立ち上げてくれたのは早稲田の学生、それを掘り下げてくれたのが一橋の学生、彼らの斬新なアイデアや新しい考えを共有させてもらい理想系に一歩、近づいた。現在でも10人ぐらいの学生が「ワンデー・インターンシップ」、「早大・一橋大との経営戦略会議」を立上げ6大学をはじめとした大学からの人脈が同社改革を後押ししている。やがて、設備が加工技術の特徴をアピールするようになった。現在も毎週水曜日は19時から勉強会を開き、学生を交えてHPの作り方や、魅力あるコンテンツに関して話し合いを行っている。

 設備群

▲Tig溶接工程
 設備は量産から多品種少量生産に対応するためタレットパンチプレスはアマダ製のEM-2510NT、レーザ加工機はLC-2412αU、ベンディングマシンFBDV-8020NT、FMB-5613NTなどが主。タレットパンチプレスやレーザ加工機の加工データを作成するためのAP100、2台のNTベンディングマシンの加工データを外段取りで作成するDr.ABE_Bend、さらにはEM-2510NTを導入する際にNT機の稼働実績をリアルタイムに収集、デジタル稼働日報として稼働率、加工品目数、加工シート枚数、使用金型のヒット数、金型段取り回数など、稼働実態を分析して稼働率の改善を図り今後の合理化に対応した課題抽出ができるvFactoryを導入している。Vfactoryで可視化できるバーチャルファクトリーはプログラム作業や作業手配を行う事務所に設置したプラズマディスプレイに常時モニターできるように表示されており、社長や事務所の社員も工場現場の機械稼働状態をみることができる。

 「vFactoryを活用するとEMで何時に着手して何時に終わったというのが一目で分かるし、1日何時間電源が入っていて、実稼働や稼働率がどれだけというのもわかる。今まで1,000円で作っていた製品を800円で作ってくれと言われも、見積規準がはっきりしていないので指値で受けるしかなく、どんぶり勘定の世界でした。ところが vFactoryを使うと費やした時間や段取時間が個別に出、品目数が加工機ごとに表示されます。それも日・週。月単位で出るので確実な原価の把握ができるようになりました。会社にも若い人達が入ってきて、ちゃんとコンピュータを理解し数字を知っています。全てがゼロ、イチでは割り切れませんが、これからは数値管理をし

EM-255NT
ないと生き残っていけません。コストを下げるということは時間を短くするか、加工に携わる作業者の労務費を下げるしか方法が無く、1時間の仕事を40分で仕上げれば3割のコストダウンになります。またチャージの高い人の仕事を1年前に入った若い人で、できるようになれば労務費は下がります。極力、不良を出さないということも大切です。曲げ工程では製品の立体姿図を見ながら同じ製品ができ、ITを活用することでモノづくりは変わっていくと感じます」。営業は見積りや納期管理が大半で、会社案内や経歴書を持って歩く営業は少なくなった。「時代はどんどん変わってきています。『ダーウインの進化論』ではありませんが種の生き残りが成立するのは力のあるもの、頭のいい者が生き残るという訳ではなく、環境の変化に順応できる者だけが生き残っていける。企業も『進化論』とまったく同じで、企業をとりまく環境の変化にいかに対応できる能力を備えているかが重要です」。浜野社長は社長就任以後、事業を拡大させてきた要因を『進化論』に喩えて語っている。「廃業や倒産に追い込まれた中小企業の多くが環境の変化に対応できなかったり、チャレンジするマインドを持たなかったからだ、と思います。どん底景気の中で社長を引き継ぎ、産学連携でのアドバイスやアイデアだけではなく、最新のデジタル設備を導入してきたからで す。高齢の作業者が培ってきたノウハウを数値管理できる機械に置き換え、経験の少ない作業者でも同レベルの品質で加工できる仕組みを構築してきました。それによって、機械を止めた内段取り作業が減り、機械でできることは機械で行うようにしてきました。さらにインターネット、HPを活用して積極的に営業活動を行うようになりました。引き継ぐ時には3社だった取引先は現在では300社になりました。業種は板金(半導体製造送致関連、医療機器、通信機器等)が7割、プレス加工が2割5分、金型5分の割合になりました」。

 インターネットやHPによって引合いを受け、新規品の割合は8割となった。普段ではなかなか会えない1部上場の大手企業からも引合いや問合わせが来るようになり、数ばかりではなく、得意先の質も変わっていった。

 「ホームページというツールが発達したということもあるのですが、景気が悪くなって一時、大手が発注を控えた時がありました。昔は、お抱えの試作屋を2〜3社もっていました。ところが協力工場の形態が変わり、しかも団塊世代が大量退職するようになって、ここへ来て景気も良くなってきたから発注元が設備や技術力を備えた協力工場を発掘しようとしています。図面ができても試作を作ってくれるお抱えがない。そこでネットで探そうということになっているのでは」と、受注環境が好転することで、インターネットの効果が出てきたと語っている。


▲3時の中間ミーティング、特急品特急品のその日の進捗状況を確認する
 インターネット活用で同社が進んでいるのが「ブログ」の活用。このアイデアも早稲田の学生の発案で2006年に立ち上げた。ブログは「Yahoo」や「Google」の検索エンジンにヒットしやすいのが魅力。例えば「墨田区の板金工場」と検索すれば同社のブログやホームページは上位に表示される。ヒットを上げるSEO対策は大学生のアドバイス。

 「ブログ/墨田の板金屋の1日」は簡単に全員が見たり、書き込めるように2006年1月に社内サーバに開設した。パスワード、IDを入力すれば、自宅からでも読み書きができる。作業終了時に進捗状況やアイデア、日報代わり、社内での出来事などで連絡が密になる。ルールは@個人的批判は書かない。A書けないのなら、見る、を徹底。2〜3カ月分を貯めて、メインで公開している部分はセレクトしたものだけで、経営企画推進室の2人がお客様との秘守義務を遵守しながら適宜選んで掲載している。もう一つが浜野社長自身のブログ「墨田の板金屋社長の無駄話」は今年立ち上げたばかり。しかし、HPに加えて同社の”活気”が伝わり、新規の取引先の中にはその”活気”を評価されて受注に結びついたこともある。 インターネットはHPやブログだけの活用だけではない。大手はEDIで注文書やCADのPDFデータで送って来る。技術情報に関しては今のところ紙データ方が多いが、DXFデータも増えている。「板金に関してはDXFの方が取り扱いやすい。例えば機械加工物で掘り込みとかZ軸のあるものに関しては3次元データの方が良いかもしれません。板金は曲げれば3Dになりますが、基本的には面と面の合成/張り合わせなので私は今のところ2次元のDXFの方が使い勝手がいいと考えています」と双方の利便性を浜野社長は語る。

 
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