IT活用インタビュー
 
展開作業のほぼ100%をベトナムのプログラムサービスに委託

−Webを活用しグローバル化に対応−
WILL受注・出荷モジュール+Mが発行したバーコード付きの作業指示書をハンディ端末で読み取り、進捗・実績情報を吸い上げる
株式会社タシロ
代表取締役 田城 裕司
住所 神奈川県平塚市入野284-1
TEL 0463-31-7118
設立 1971年(1966年創業)
従業員数 14名
業種 鉄道車両、半導体・FPD製造装置、医療機器用部品などの製造
URL http://www.tasiro.co.jp/
   
会社経歴

1966年、田城社長の父親によって、自動車販売および修理業として創業。1991年、工場増築にともない、パンチ・レーザ複合マシンを導入して精密板金加工の分野に参入。それ以来、高出力レーザマシンによる高精度加工、デジタル化などを推進し、成長を遂げた。ISO9001認証取得済み。


主要設備
工程統合マシン LC-2012C1NT+MP-2512C1、レーザマシン FO-4020NT(6kW)+AS-4020FO、FO-3015NT(3kW)、ベンディイングマシン FBDV-1025NT、2次元CAD/CAM AP100、曲げ加工データ作成全自動CAM Dr.ABE_Bend、生産管理システム WILL受注・出荷モジュール+M、稼働サポートシステム vFactory
 
 “複合加工”でベストの工法を提案

▲代表取締役社長の田城裕司氏

▲ベンディングオペレータでIT・プログラムにも精通する百田富美子さん
 同社が得意としているのは、ワイヤ放電加工機、立形マシニングセンタ、NC旋盤などの工作機械と、パンチ・レーザ複合マシン、レーザマシン、ベンディングマシンといった板金設備とを駆使した“複合加工”。専門の業者だと、それぞれ得意な工法でモノをつくろうとする傾向があるのに対して、同社は後発メーカーでありながら、機械加工と板金加工とを組み合わせ、良い製品を安く、早くつくれる「ベストの工法」(田城社長)を提案することで、得意先の信頼を獲得してきた。

 定期的に受注する得意先は50社前後、メインの10社で売上の約80%を占める。新幹線車両部品、半導体・FPD製造装置、医療機器用部品など様々な業種の製品を受注している。

 フィンランドにCAD展開をアウトソーシング

▲神奈川県平塚市にある潟^シロ
 「今の時代、企業はグローバルでなければ生き残れません。しかし、海外に工場を進出することだけがグローバルではありません」と田城社長は語る。

 同社は2005年から、ベトナム・ホーチミン市にあるプログラミングセンターに展開プログラム工程をアウトソーシングしている。きっかけは、以前に同社でプログラムを担当していた社員が、フィンランドのヘルシンキ工科大学へ留学したことだった。

 「その社員は、もともとは木工を志していました。彼が28歳のときにヘルシンキへの留学が決まったのですが、学費・生活費を工面しなくてはならない。そこで、当社で担当していた展開プログラム作業を学業の合間に手伝ってもらうことにしました。当社も助かるし、彼も学費の足しにできます。AP100αの設備一式を持たせて送り出しました」。

 「最初はうまくいくとも思えませんでした。ところが、留学に行く本人が、1カ月2,000円でFAXを画像データに自動変換し、メールに添付して転送するサービスを見つけてきました。フィンランドは、世界最大の携帯電話メーカーであるノキアのお膝元ということもあって、情報インフラの充実度は世界でも随一。当時から大学の寮には光ケーブルが導入されていました。2005年8月に立ち上げてから、国際電話を一度もかけることなく、すべてメールのやりとりだけですみました。『どうしてこんなにうまくいっちゃうの?』と、我ながら、何のトラブルもないことに驚いてしまいました」。

 日本から図面をFAXで送ると、自動変換サービスが画像に変換、メールに添付してフィンランドへ転送する。夜の9時に送れば、フィンランドは昼の2時。大学から帰ってきてからプログラムの作業に取りかかる。日本では、翌朝に出社すると、展開されたDXF形式のCADデータがメールで届いている。

 ベトナムにプログラム作業をアウトソーシング

▲SheetWorks で展開した後はASIS100PCL(SDD)に保存される

▲Dr.ABE_BendがSDDから自動で呼び出し、曲げ加工データを作成する

▲Dr.ABE_Blank が自動ネスティングを行う。新規品はベトナムから来た展開図をAP100でチェックする
 手ごたえをつかんだ田城社長は、即座に、展開プログラム工程を海外にアウトソーシングすることを考え始める。

 「2005年12月頃、人づてに、ベトナム・ホーチミン市にあるプログラミングセンターを知りました。当時のベトナムはまだ情報インフラが整備されておらず、回線もダイヤルアップがメイン。図面を画像にしてメールで送っていたのでは、通信トラフィックに回線が耐えられず、受け取れません。だからメールをやめてファイルサーバーを設置し、スキャニングした図面の画像データをサーバーにプールして、端末からアクセスするシステムに変更しました」。

 スキャナ付きのプリンタ複合機を導入し、図面をスキャニングして画像データに変換してから、サーバーにアップロードする。ベトナムのプログラミングセンターのスタッフは、サーバーから図面の画像データをダウンロードし、CADで展開図を描き起こして、DXFを再びサーバーにアップロードする。日本ではできあがったDXFをダウンロードし、AP100でCAM割付を行う。こうしたワークフローが完成した。
 ほぼ100%、ベトナムに委託

▲発売と同時に導入したアマダの工程統合マシンLC-2012C1NTによるブランク加工
 同社の紅一点、ベンディングマシンのオペレーションとIT、プログラムに精通している百田富美子さんは、ベトナムとのやりとりを始めたばかりの頃について、次のように話す。

 「はじめは、当社で作成している仕様書を送って、担当者に展開の手法を習得してもらいました。ベトナムでは、そうした情報を蓄積していき、自分たちなりの仕様書を改めて作成していきました。最初の半年くらいは、伸び値や分割位置の指示を図面に書き込み、分からないことがあれば、その都度問い合わせをもらって対応していましたが、今ではすべてお任せできます。ベトナムでは、これまでの実績を蓄積しているので、問い合わせがくるとしても『前回はこうだったけど、今回もこうでいいですか』という確認くらいです」。

 「データを受け取る際も、通常のPCでネットワークフォルダを開くだけでサーバーに自動接続します。特別な操作は不要で、まったく違和感なく使えています。また、ベトナムには日本語ができるスタッフが常駐しているので、電話・メール・FAX、すべてが日本語です」。

 現在、新規図面の展開は、ほぼ100%、ベトナムのプログラムセンターに委託している。田城社長は「展開ミスもほとんどありません。高品質で低コスト、レスポンスも早い。今ではなくてはならない取引先です。こんなにとんとん拍子で進むとは思わなかったので、フィンランドに続いてグローバル化の成果に驚くことになりました」と相好を崩す。

 ネットワークを最大限活用

▲AMNC/PCでSDDから曲げ加工データを呼び出し指示通りに加工する
 ベトナムから届いたDXFデータは、AP100で読み込んで、全体の寸法と、切り欠きやスリットの位置と形状をチェックし、曲げ線を入れて、板金ネットワークサーバーASIS100PCL(SDD)に保存する。それをブランク加工データ作成全自動CAM Dr.ABE_Blankがバッチ処理で読み込み、パンチ・レーザ複合マシンLC-2012C1NT(2008年導入)と2台のFO向けにネスティングデータを自動作成する。

 曲げ加工データは、Dr.ABE_BendがSDDから展開図データを自動で読み取り、曲げ加工可否のシミュレーションを行い、加工データを自動作成する。

 作成された加工データは、現場の加工マシンのAMNC/PCで呼び出し、加工に取りかかる。加工完了後は、WILL受注・出荷モジュール+Mが発行したバーコード付きの作業指示書をハンディ端末で読み取り、進捗・実績管理を行っている。さらに、稼働サポートシステムvFactoryが、現場の各ネットワーク対応マシンから進捗状況を吸い上げ、稼働状況をリアルタイムで把握、さらにデジタル稼働日報で稼働実績をいつでも確認できる仕組みを構築している。

 中国からの研修生を受け入れ

▲各マシンの稼働状況は稼働サポートシステムvFactoryで一目瞭然
 2006年には、同業者の紹介で、中国からの研修生を3人、初めて受け入れた。それ以降は、仕事量が落ち込んだ2009年を除いて、毎年、中国から研修生を受け入れている。

 人との結び付きを何よりも大切にする田城社長は、研修生との“縁”もムダにはしない。受け入れた時はだいたい20歳前後で、研修期間が終わった頃には23 〜 24歳。中国に帰国した後も連絡を取り合い、場合によっては、中国のローカル企業や日系企業に紹介し、就職の仲立ちをする。「若いうちに日本の厳しい品質管理のもと、NC装置のオペレーションを習得したことは、中国の企業にとっても大きな魅力のようです」(田城社長)。

 “かかわり”からチャンスを手にする

▲給・排水トレイ(SUS 1.5o)。複雑な製品も正確かつ綺麗に仕上がる
 「ここ5 〜 6年の間に、ベトナム・中国との結び付きが一挙に強くなりました。最初はそういうつもりはなかったので、私自身がとても意外に感じています。何を見つけられるかは分かりませんが、“かかわり”をもつことが大切です。今のところ、海外に拠点を持つことは考えていませんが、いざというときに動けるよう、下地は築いておこうと考えています。今、私たちの周りにはインターネットをはじめとした便利なITツールがあります。こうしたツールを活用して、グローバル化にも柔軟に対応していきたいと考えています。海外に出ることも、決して難しいこととは思いません」。

 田城社長は、2月17日から神奈川産業振興センターが企画するインド産業視察団に参加。チェンナイ、バンガロール、デリーなどの板金企業や、インド工科大学(チェンナイ校)がリサーチパークに開設している「Sheetmetal Technical Center」などを視察し、中国、ベトナムに続いて、インドにビジネスチャンスを求めようとしている。リスクを恐れず、“かかわり”からチャンスを手にする、田城社長の積極姿勢を学びたい。
 
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