IT活用インタビュー
 
得意先とのWin-Win 連携を強固に
自社の戦略はフレキシブルに実行


−地産地消への対応から中国に進出−
上左 同社の中国工場「 常州永正机械有限公司」
上右 中国工場の玄関
下 中国工場のベンディングマシンRG100
株式会社ヤスナガ
代表取締役 安永 修
住所 福岡県柳川市三橋町中山310
TEL 0944-63-2141
設立 1968 年
従業員数 51名(日本)
59名(中国)
業種 農業機械部品、水産加工機械部品、橋梁型枠用部品、精密機械用部品、板金加工全般
URL http://www.t-yasunaga.co.jp/
   
会社経歴

1955年ごろまでは、現社長の祖父が鍬や鎌など農作業用の道具を製作。
1968年に現社長の父が笈タ永鉄工所を設立し、1990年に(株)
ヤスナガを設立。
1994年、(有)安永鉄工所と合併し、現在に至る。1994年、安永 修氏が2代目社長に就任。1999 年、新工場を設立し2005年、ISO9001:2000を取得。
2008年、共同出資で中国・江蘇省常州市に常州永正機械有限公司を設立し、地産地消に対応している。


主要設備(日本工場)
● パンチ・レーザ複合マシン:EML-3610NT+ASR-510M
● レーザマシン:FO-3015NT+AS-3015FO、FO-3015+ASF-3015FO
● パンチングマシン:EMZ-3610NT、EM-2510NT
● ベンディングマシン:HDS-1703NT/2204NT、FBD V -1025NT/8025NT
● 2次元CAD/CAM AP100 × 3台
● 曲げ加工データ作成全自動CAM:Dr.ABE_Bend
 
 金融業務を経験し多角的な視点を持つ2代目社長

▲本社工場(日本) 外観
 創業当初、同社は農作業用の道具を製造していた。その後、金属加工業に転換し、1965年前後から海苔の乾燥機 用の板金部品を加工するようになり、1970〜71年ごろからはコンクリート製橋脚の型枠製造も行うようになった。型枠 を製造するようになってからは、ベンディングマシンによる曲げ加工が本格化していった。

 1994年、安永 修氏が2代目社長に就任。創業者である祖父から数えると3代目にあたる。安永社長は大学卒業 後7年間、金融機関に勤め、財務会計の実務を学んだ後、1991年に同社へ入社し、シャーリングから抜き・曲げまで の加工全般と、パンチングマシンのプログラム作業を学んでいった。

 安永社長は「モノづくりだけで世間知らずになってはいけないと考えたことと、銀行業務で学ぶ財務会計、特に財務 諸表の見方、つくり方を勉強し、多角的な考え・視点を持つ仕事人になりたいと考えたからです」と語り、自らが目指 す経営者像を見据えた上での選択であることが分かった。

 2次元CAD/CAM AP100 が大活躍
 全体の80%超を占める新規品の図面を展開・割付

▲2次元CAD/CAM AP100でバラシ・展開を行う
 コンクリート製橋脚の型枠製造をメインにしていた頃は4.5〜9oの中板の高速切断を得意としていたが、バブル崩壊後にIT 関連の受注が増え、2.3o以下の薄板や、1.0o、2.0oといったステンレスの仕事も受注するようになった。それに加え、板厚25oのSS材を幅5oで切断し、R曲げにも対応するなど、着実に業容を拡大していった。加工材料はSS材をはじめ、アルミ、ステンレス、縞鋼板など幅広く対応している。

 「当社はリピート率が10〜20%程度で、ほとんどが新規品。過去に作成したプログラムデータも同程度しか活用できませんから、受注図面から展開・CAM 割付ができる2次元CAD/CAM AP100が大活躍しています。AP100で作成した展開図・立体姿図は、板金ネットワークサーバーASIS100PCL(SDD)に保存し、それを曲げ加工データ作成全自動CAM Dr.ABE_Bend がバッチ処理で読み取って、曲げCAM を自動生成するという自動化・省人化の流れを確立しているため、80%超を占める新規案件にも問題なく対応できています。もちろんデジタル化一辺倒ではなく、溶接など、熟練の技術を必要とする工程のスキルアップと技能継承にも力を入れています」。

 中国進出時は100万ドルの設備投資
 その後、業容拡大により500万ドルに増資

▲AP100で作成されたCAD/CAMデータはASIS100PCL サーバー(SDD)に登録し、必要に応じて呼び出し、加工に供される
 同社は2005年頃、中国進出を検討している生産管理ソフトハウスからの依頼で、板金用CAD/CAM の作成ノウハウを指導した。このソフトハウスは、そのノウハウをもとに中国・上海にプログラムサービス部門を立ち上げ、安永社長も自社から2名の技術者を派遣するなど協力を惜しまず、2006年には毎月1,300〜1,500本程度の展開・プログラム作成を行うまでになった。

 さらに安永社長は、板金加工の仕事を、中国に進出した日系企業から現地で直接受注する計画も進めていた。

 「4年程前になりますが、得意先の農機メーカーから中国進出の打診をいただいたことに加え、当社の一番の得意先メーカーも中国に工場進出を計画していました。当社と得意先2社の戦略がマッチしていたことで、サプライヤー4社の共同出資で中国進出を決断しました」。

 「進出の打診をいただいた農機メーカーはすでに江蘇州常州市に進出していたので、進出当初(2008 年)は工場内の場所を100坪ほど借り、板金加工をしていました。そして、2010年に自社の工場横にサプライヤー用の工業団地を用意してくれたので、その土地を1/3ほど(約2,000m2)借り、工場を移転しました。設備投資のための初期投資額は、4社で計100万ドル(約1億600万円、1ドル=約106円換算)です。その後、徐々に受注量が増えてきて、農機メーカーから機械加工もしてもらえないかとの依頼があり、共同出資社のうちの1社が機械加工も担当することになりました。
2010年には共同出資社が7社に増え、500万ドル(約4億295万円、1ドル= 80.6円換算)に増資しました」

 「進出の目的は、現地で受注・出荷・販売まで行って地産地消に対応することですから、基本的に日本で受注した図面を中国工場へ送ったりすることはありません」と、安永社長は状況判断と同様、テンポ良く話す。

 日本の心が理解できる中国人をビジネスパートナーに

▲SDDに新しいデータが登録されるとDr.ABE_Bend により曲げ加工データが自動生成される
 順風満帆に見えるが、中国での工場立ち上げや税務署などへの対応には気を揉んだという。

 「設立当初、細かい備品などの仕入れは現地で行わなければなりません。ですが、現地のサプライヤーに見積りを出してもらっても1週間はかかり、それなら自分たちで調達しようと考えましたが、市場に行こうにも車の手配などに時間がかかり、結局は身動きが取れない?? 一事が万事、こんな状態でした。日本だったら1〜2カ月で完了することが、6カ月以上もかかってしまいました」。

 また、中国工場の董事長でもある安永社長は、現地の運営について「日本に10年以上いたことがある中国人スタッフに総経理を任せています。メインの業務は地方政府や税務署との折衝で、板金業務の経験はないので、実作業をしてもらうことはありません。やはり私たちが直接やりとりするのは、商習慣など色々な面で大変だと考えたからです。中国で上手に仕事をしていくのなら、日本の心や仕事観を理解している中国人とビジネスパートナーになれるかどうかが重要なファクターです」と語っており、試行錯誤を経て経験を重ねた経営者ならではの重みが伝わってきた。

 自社・共同出資社の得意部門を活かし
 業容拡大を目指す中国工場

▲2010年11月に導入したパンチ・レーザ複合マシンEML-3610NT(棚およびTK付き)。2人で図面を確認しながら作業を行う
 中国工場は、同社の板金加工部門だけでなく、共同出資社による機械加工・ソフト開発・溶接などの部門も持っており、お互いが強みを持ち寄っている。

 中国工場の受注状況は、農機メーカーからの仕事が70%程度を占め、残りの30%は現地の日系企業からの仕事となっている。受注比率はリピート品の方が多い。

 「今後もリピート品が多い業態に変わりはないでしょう。ここ最近は、当社の近所に新しく日系企業が進出して来たので、手描きのマンガのような図面から工場内の設備を製作する仕事などで忙しくなっています。追加依頼もあり、こういう仕事は大体リピートで対応できます。また現在、図面からの展開・抜き・曲げの工程は、日本からの技術者1名と『人材市場』(職業安定所のような中国の公的機関)の紹介で採用した現地の経験者数名で対応しています。その中で、アマダのレーザ・パンチング・ベンディングといった主要マシンの作業経験がある人物に、現場のリーダーを務めてもらっています。品質に関しても、ブランク工程はアマダ製のマシンで加工しているので、キレイに仕上がります。板金加工に加え、溶接にも対応しているので、得意先からは高い評価をいただいています。今後は、農機以外の分野でもシェアを拡大して、1社依存のリスクを軽減することを念頭に営業活動を進めていきます。半年〜 1年後には、板金加工と機械加工がセットになった仕事が取れると見ています」。

 中国進出により自社の戦略性・日本の社員の意識が向上

▲レーザマシンFO-3015NT(棚付き)
 「中国進出のメリットは、本社工場の社員の意識が高くなったことと、上海を拠点としている得意先メーカーとの協業が密になり、価値観や情報の共有化ができたことです。例を挙げると、それらが共有できていると、ある製品の製作・販売を検討する際に、付加価値を重視して日本で製作するのか、コストを重視して中国で製作するのかという判断・戦略が、スムーズかつフレキシブルにできるのでムダが少なくなります」と、地産地消への対応、Win-Win連携という言葉がぴたりと当てはまる状況を聞くことができた。

 サプライヤー業に特化する日本工場
 OEM 対応を目指す中国工場

▲ベンディングマシンHDS-2204NTで長尺製品の曲げ加工を行う
 「板金加工、機械加工、ソフト開発ができる企業が結集している中国工場は、今後、OEM生産にも対応できる工場を目指します。中国では、量をこなせないと受注が厳しいことを踏まえ、昨年12月頃に上海アマダからパンチングマシンAE-2510NTを導入し、今後は、従業員数を100〜200人の規模に増やしていきたいと考えています。また、本社である日本工場は、設計から加工・組立まで一括で任せてもらえるよう、サプライヤー業に特化したユニットメーカーを目指していきます」と、両工場が独自に、そして情報・技術の相互補完を行いながら成長していくことが望ましいと将来像を明確に語る。 

 
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