IT活用インタビュー
 
多品種少量生産に受注情報・加工情報の
“データ化”で対応


−「SDDサポートサービス」の導入で工場の稼働停止を防ぐ−
ネットワーク対応のパンチングマシンEM-2510NT(マニプレータ付き)は自動倉庫MARS(10 段4 列)と連動し、 データを最大限活用する体制を構築している
株式会社 屋代製作所
代表取締役 屋代 勇
住所 茨城県土浦市沢辺1461 番地
TEL 029-862-3949
設立 1981 年(1955 年創業)
従業員数 65名
業種 FPD・半導体製造装置・医療機器・食品機械などの精密板金加工
URL http://www.yashiro-ss.co.jp/
   
会社経歴 1955 年、先代の屋代正雄氏が東京都文京区で個人会社として創業。1971年、 業務拡張にともない、茨城県新治郡へ移転。1981年に株式改組し渇ョ代製作所となり、1991 年に現在地へ移転した。 それ以降、工場敷地の拡張と工場増築を繰り返しながら常に最新鋭の設備を導入し、成長を続けてきた。ISO9001 認証取得済み。

主要設備
● レーザマシン:LC-2415αUなど2 台 
● パンチングマシン:EM-2510NT+MP-1224+MARS(10 段4 列)、PEGA-357 U
● ベンディングマシン:HDS-1303NT/5020NT、FBD V -8025NT/5020NT など8 台
● 3 次元ソリッド板金CAD Sheet Works 
● 2 次元CAD/CAM:AP100
● 曲げ加工データ作成全自動CAM:Dr.ABE_Bend
● 生産管理システム:WILL 受注・出荷モジュール+M
● YAG レーザロボットシステム:YLR-1500 Uなど2 台
 
 多品種少量生産に対応するため“データ化”を推進

▲得意先2 社からはEDI で受注し、生産管理システムWILL 受注・出荷モジュール+M に自動登録される

▲AP100 で展開図と立体姿図を作成するとDr.ABE_Bendが自動的に曲げ加工データを生成しSDD に保存する

▲今後はSheetWorks による3 次元設計にも対応していこうとしている
 「他社との競争を避けるため、鉄からステンレス製品へとフトしていきました」と屋代 勇社長は語る。

 この言葉どおり、同社は現在、半導体製造装置・医療機・食品機械といったステンレス製品の比率が高い業種の 仕事をメインに手がけている。現在の得意先社数は約30 社。そのうち定期的に受注しているのは半数の15 社前後で、大 手メーカー7 社からの仕事が売上全体の90%ちかくを占めている。

 月間のアイテム数が3,000 〜 4,000 点と多い反面、平均ロットは10 個以下。リピート率は50%と低く、新規品の割合が 高いために、プログラム工程に負荷が集中している。

 「今の時代は当たり前なのかもしれませんが、典型的な多品種少量生産です。設備もそれに適したものを増強してき ました」と屋代社長は語っている。

 多品種少量生産への対応として同社が採用してきたのが、生産管理システムの導入による受注データの効率的な 管理、ネットワークをフルに活用した加工データの一元管理である。

 1997 年、現在地へ移転する際に板金ネットワークサーバーASIS100PCL を導入して社内ネットワークを敷設。 2001 年には2 次元CAD/CAM AP100、生産管理システムWILL 受注・出荷モジュール+M、ネットワーク対応型ベ ンディングマシンFBD V -5020NT をほぼ同時に導入して、生産情報・加工情報を一元管理できるシステムを構築し、 データを有効活用できる体制を整えた。

 それ以降、2005 年にはパンチングマシンEM-2510NT をマニプレータ付きで導入して自動倉庫MARS(10 段4 列) と連動させ、ベンディングマシンもFBD V -8025NT(2005年)、HDS-5020NT(2007 年)、HDS-1303NT(2010 年)と次々 に導入。データとネットワークを最大限に活かして、多品種少量生産に対応できる工場を築いていった。

 ウイルス感染の疑いからサーバーの一時停止を体験

▲代表取締役 屋代 勇氏
 データの利用度が増したことで、今度は万が一データを失った場合のリスク対策が課題として浮上した。

 管理部部長を兼務する降矢義美 執行役員は「加工データが集約するSDD のデータは、2006 年頃からバックアップを取るようになりました」と語っている。

 「2005 年頃、当社のサーバーにコンピュータウイルスが侵入した疑いが見られたために、大事を取って2 〜 3 日の間、電源とネットワークを停止し、業者を呼んで全面的にサーバー内のクリーニングを行う、という出来事がありました。大事に至らなかったのはよかったのですが、2 〜 3 日という限られた期間とはいえ、サーバーを止めたことで工場を停止せざるを得なかったことが大きな課題として残りました。

 この出来事をきっかけに、データのバックアップを取る必要を痛切に感じました。バックアップさえ取っていれば、いくらか制限はあったかもしれませんが、サーバー機能を別のハードウエアに移すことで、工場を稼働させ続けることができたかもしれません」(降矢役員)。
 2006 年からは、社内にバックアップ用の機器を設置し、週に1 回、バッチ処理でSDD のデータを同期(ミラーリング)させるようになった。
 2007 年にISO9001 を取得したことも、バックアップに対する意識をいっそう高めることになった。ISO では第三者機関による更新審査が定期的に行われるが、その際に必ず「バックアップはどのように取っているか」と聞かれる。同社はすでに対策をとっていたので問題になることはなかったが、品質マネジメントの観点からもバックアップの体制が問われるようになっていることが刺激になったのは間違いない。

 工場の稼働停止を防ぐ「SDD サポートサービス」導入

▲ASIS100PCL(左)にセーブされたデータは即座に「SDD サポートBOX」
(右)にバックアップされ、1日分の差分データは夜のうちにWeb 経由でデータセンターへ送られる
 同社内で「バックアップしたデータを同じ社屋に保管していても意味がない」と議論され始めたのは2009 年頃。ウイルスの侵入を含むシステムトラブル対策としては十分かもしれないが、同じ場所に置いてあったのでは、地震や火災といった災害でメインのサーバーとバックアップ機器の両方が復旧不能になる可能性が高い。

 「屋代社長の自宅にバックアップ機器を置いて、Web 経由でデータを送信しようかと思い、テストしてみましたが、当時はまだこのあたりに光ファイバーが敷設されておらず、通信も不安定で、うまくいきませんでした」(降矢役員)。

 そこへアマダアイリンクサービスから『SDD サポートサービス』の提案を受け、2010 年11 月頃に導入を決断した。このサービスは、SDD のデータを『SDD サポートBOX』にミラーリングするとともに、Web を通じてデータセンターに3世代分のバックアップデータを預けることもできるというもの。

 降矢役員は「単なるバックアップではなく“工場が止まるのを防ぐ”というコンセプトが当社の要望と一致しました」と語っている。

 「ウイルス感染の疑いからサーバーを停止せざるを得なかった経験をもつ当社にとって、『SDD サポートBOX』は大きな魅力でした。ただのバックアップだとトラブル発生時に、代替機を設置し、設定をして、バックアップデータをすべて戻すなど、完全にサーバーの機能を代行させられるようにするまでに時間がかかってしまいますが、『SDD サポートBOX』があれば、瞬時にサーバーの機能を切り替えることができます。もしSDD だけがウイルスに感染したなら、いったん『SDD サポートBOX』に機能を切り替えてからクリーニングを行い、ウイルスを完全に除去できたことを確認してからゆっくり元に戻せばいいのです」。

 WILLの受注データもバックアップ

▲ブランク工程にはLC-2415αUなど2 台のレーザマシンを設備している

▲HDS-1303NT/5020NT など8 台のベンディングマシンが並ぶ曲げ工程
 降矢役員は「SDD に保管されている加工データはたしかに重要です。しかし極端なことをいえば、万が一、加工データがなくなったとしても、データを新たにつくり直すことで操業は可能です。当社にとって加工データ以上に重要なのが、WILL で管理している受注データです」と強調する。

 同社は2001 年にWILL を導入して以降、受注情報の管理はすべてデータで行うようになり、受注台帳をはじめとした帳票は完全に廃止している。大手の得意先メーカー7 社のうち、2 社からはEDI で注文を受ける。そのうち1 社は、発注データと一緒に図面データも添付される。一品一様なので、同じ製品・同じ納期の注文が同時に来ても、製番がちがえば注文番号も変わってくる。しかし、それをいちいち人手をかけて入力し、伝票を発行していたのでは管理工数ばかりが膨れ上がってしまうため、EDI で受注したデータは自動的に直接WILL へと登録されるようにカスタマイズしている。

 「受注データはEDI を通じて刻々とWILL に登録されていきます。そのデータがすべて消えてしまったとしたら、どの製品をいくらで受注していたのか、今月の売掛・入金など、何も分からなくなってしまいます。それでWILL のデータもSDD に集約し、バックアップの際にはWILL のデータもまとめて外部のデータセンターへバックアップできるようにしてもらいました。これで加工データと受注データ、両方のバックアップを一挙にとることができます」(降矢役員)

 3 月11 日に発生した東日本大震災で同社が大きな被害を受けることはなかったが、それでも降矢役員は「SDD サポートサービスに入っていて良かった」と話している。

 「このあたり(茨城県土浦市)は落雷の多い土地柄で、年に何度か、落雷による停電が発生しています。サーバーは365 日稼働していますから、休日でも雷が鳴れば矢も楯もたまらず、様子を見るために出社していました。今はUPS(無停電電源装置)とSDD サポートサービスを導入しているおかげで、そこまでやきもきせずにすんでいます。震災後は様々な心配事が尽きませんでしたが、データの保全という
点では安心していられました」。

 図面データのバックアップとペーパーレス化が課題

▲2 台のYAG レーザ溶接ロボットを設備。1 台はロボットを軌道上にセットして移動、長尺製品にも対応する
 残された課題として、降矢役員は「図面データのバックアップ」を、屋代社長は「生産指示書と図面のペーパーレス化」を挙げている。

 降矢役員は「当社は2007 年頃から、紙図面をスキャンして画像データとして保管しています。しかも、現場の作業者が生産指示書や図面に書き込んだ生産上の“注記”も、事務所に戻ってきた段階で逐次、反映させていますから、これは加工データと同じくらい重要な当社の資産といえます。しかし、お客さまからは毎月1,000 枚近い図面が次々に送られてきますから、ファイルの数・データ量ともに膨大で、バックアップも容易ではありません。WILL の受注データをSDD の加工データと一緒にバックアップできるようにしたときのような、簡単な話ではありません。しかし最近はクラウドコンピューティングの進展によってデータセンターをはじめとするオンラインストレージ(Web 上のデータの保管領域)も大容量化していますから、セキュリティや安全保証の問題をクリアできれば、対応を進めていきたいと考えています」。

 屋代社長は「当社では現場の各工程にWILL の端末を設置して、進捗・実績情報を確認できるようにしています。また、作業完了時には生産指示書のバーコードを読み取り、進捗を管理していますが、作業者の手間を考えると、いちいち端末のところへ足を運ばなくても良いように改善したいと考えています。スマートフォンやタブレットPC の普及が進んできたことで、バーコードの読み取りだけでなく、携帯通
信端末で進捗情報や生産指示書、図面データも携帯通信端末で参照できるようになれば、現場のペーパーレス化も現実味を帯びてくると期待しています」と、それぞれ意気込みを語る。

 さらに屋代社長は「これからは3 次元設計にも対応し、仕事を伸ばしていきたい」と攻めの姿勢も見せる。2010 年には、SDD サポートサービスと同時に3 次元ソリッド板金CAD SheetWorks を導入。得意先メーカーから3 次元の外形モデルだけを受け取り、板金設計から一括で請け負える体制づくりに取り組んでいる。成長する仕事に対応するため、現在の工場の隣地では、ほぼ同じ敷地面積をもつ新工場の建設がすでに始まっている。

 “データ化”により多品種少量に対応していった屋代社長。会社が成長を続けるための武器として、攻守の両面でIT を最大限に活用していこうとしている。

 
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