著名者インタビュー
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2003/7-8
中小製造業の活路開くナノテクノロジー


ナノ・ビジネス・マーケティング研究所所長
松井 高広氏
1957年東京生まれ。84年JTBグループのアイシーエス企画入社。国際会議、企業イベント、国際展示会の企画・運営に携わる。2002年には世界初のナノテク総合展示会を企画、成功に導く。現在、同社の営業推進部長として活躍するかたわら、ナノテクビジネスのコーディネーター兼コンサルタントとして多忙な日々を過ごす。著書に『ナノテクビジネス最前線』(すばる舎)『ナノテクビジネス成功へのシナリオ』(実業之日本社)など。
中小製造業の活路開くナノテクノロジー
 原子を1個ずつ操作できるマイクロマシン、血管を通って患部に薬を集中投与できるドラッグデリバリーシステム----。こうした夢のようなモノづくりを実現可能にさせる新技術がナノテクノロジー(超微細加工技術)です。いまだ開発途上の分野であり、実用化されているケースはほとんどないため、その全貌は計り知れません。しかしながら、従来の製品や技術に関して高い付加価値をもたらすのは間違いなく、未来市場として有望視されるとともに、モノづくり大国ニッポンの復権の大きな鍵を握る技術であるといっても過言ではないでしょう。

 事実、政府レベルでもブロードバンド・IT、バイオテクノロジーなどとともにナノテクも経済活性化の重点分野の一つとして掲げており、具体的な研究開発プロジェクトが始動している最中です。各メーカーも連携を組んで応用技術開発に積極的な取り組みを見せています。

 こうした動きはまた中小製造業にとっても、大きなビジネスチャンスとなるのはいうまでもありません。乗り遅れることなく、積極的に参加していくことで勝ち残りへの道筋が開かれていくのは明らかです。そこで今回はナノテクが中小製造業にもたらすメリットについて、現状の技術動向とともに考察してみることにします。

 ナノレベルでモノづくり
  ナノとは10のマイナス9乗(10億分の1)を表す単位の接頭語で、ナノメートルといえば、10億分の1メートル。1ミリの1000分の1が1マイクロメートルですから、その大きさからさらに1000分の1にしたサイズで、分子やDNAの大きさに相当します。この肉眼では全く認識できない単位からモノをつくり出そうという技術がナノテクノロジーと呼ばれるものです。

 例えば電子部品をナノ単位で加工することも、分子構造をナノレベルで変えて新材料を生み出すこともナノテクの範疇に入ります。したがってナノテクはある分野に特化した技術ではなく、物理、化学、機械、電気、電子、材料、生物、医学などあらゆる分野に新たな価値をもたらす広大な基盤技術といえるのです。

 それにしてもナ丿サイズがなぜ重要なのでしょうか。実はナノよりもさらに10分の1の小さなサイズとして原子があり、これが物質の最小単位となります。ところがこの原子の大きさでは何の働きもしないのです。原子と原子が結合してナノサイズになって初めて突然有機的な機能を発揮するようになるわけです。

 そこに大きな意味があります。機能を発する最小単位をコントロールできるということは、それ以上大きなモノをコントロールできるということにほかならないからです。いまナノテクが騒がれているわけもそこにあり、こうしたナノレベルの技術を手に入れることで、半導体の超微細化やカーボンナノチューブを使った高機能な電子材料の開発が可能となり、産業の飛躍的な発展につながっていくものと期待されているのです。将来的な有望市場といわれる所以でしょう。

 第2世代は開発途上
 ところでナノテクのなかでモノをつくっていくには二つのアプローチ法があります。一つは下から、もう一つは上からです。前者のことをボトムアップ方式といい、原子・分子を構築していって大きな物質をつくっていくというというやり方。一方、後者のことをトップダウン方式といい、大きな物質をどんどん削り込んでいって小さなモノをつくっていくというやり方です。

 実はこのトップダウン方式はいわゆる従来のモノづくりのアプローチ法で、きわめて重要な技術といえます。例えばかつては日本の代表的な主力製品であったDRAMなどの集積回路はこのトップダウン方式によってつくられているからです。

 その半導体製造技術もいまやミクロン単位に切ってナノサイズのオーダーが当然のように求められるようになってきました。半導体チップの回路線幅は開発段階とはいえ、100ナノを切るレベルまで微細化してきているのが何よりの証拠です。インテルが1960年代後半に初めて実用化したマイコンのCPUの回路線幅が10ミクロンだったことを考えればその間の技術向上は凄まじいばかり。まさに隔世の感があります。

 また携帯電話のコンデンサーなども部品自体はまだミクロン単位ですが、制御技術は全てナノサイズです。新素材として注目されているカーボンナノチューブの一世代前のナノカーボンも100ナノレベルのものもあり、電子部品の素材として活用されて久しい。

 したがってこう考えてきますと、もうすでにナノテクは当たり前の技術として普及しているともいえるのです。ただ、いままでのモノづくりの延長線で実用化されているのでピンと来ないのかも知れません。大阪大の川合知二教授は、これを第1世代のナノテクノロジーと呼んでいます。

 翻って第2世代のナノテクとは何かといえば、例えばフラーレンやカーボンナノチューブなどの新素材を使った十数から数ナノクラスでの加工技術といってもいいでしょう。ビッグビジネスにつながっていくであろうと誰もが認識している領域です。しかしながらいまのところはこの第2世代は開発途上で、試作品の段階に止まっており、製品化・実用化には至っていないのが現状。数ナノ単位の超微細な物質を扱う技術が確立されておらず、有効な活用法も見出されていないからです。

 中小にも活躍の場
 それだけに各企業とも研究開発には熱心に取り組んでいます。最近、実行委員会事務局としてかかわったナノテクの総合展示会で入場者を対象としたアンケート調査にもその姿勢が如実に表れているといえるでしょう。

 入場者は大手や中小製造メーカーの社員が中心で、そのアンケート結果によると、回答を寄せてきたうちの80%近くはナノテクに取り組んでいる最中か、あるいは取り組む予定という答えだったからです。しかもそのうちの二人に一人は基礎研究段階で、そのほとんどが応用開発のパートナーを探しているとのことでした。

 このようにアンケート結果からもナノテクへの取り組みに対する流れは急といえます。さらにパートナー探しというキーワードを深読みすれば、大手中心のモノづくりという発想からの離脱宣言ともとれなくもありません。技術力のある企業とならば、規模の大小にかかわらず、あるいは従来の関係とは別に積極的に手を組んでいこうとの意思を読み取ることができるからです。

 そこに中小製造業の出番があるのではないでしょうか。実際にも中小製造業の活躍の場は確実に広がっています。顕著な例は三井物産のケースです。

 同社では東京・昭島市に年間120トンという世界最大級の生産能力を持つ直径20ナノのカーボンナノチューブ生産プラントを完工、昨年秋から稼働させています。同時にそこで量産されるカーボンナノチューブを核とした共同ビジネスを展開しようとの狙いから、大手メーカーのみならず大田区や三多摩地区の中小企業などにも呼びかけて無料でサンプル品を供給、新技術開発を進めているのです。

 すでに試作品が多数寄せられており、なかには実用化に向けて共同で応用開発段階に入った製品もあると聞いています。例えば、シリコン樹脂にカーボンナノチューブを入れ込んだ複合材がそうで、静電子防止効果に役立てようと製品化が進んでいるようです。

 三井物産によると、こうした試作品のほとんどが中小企業からの提案。経営判断が速く、しかも大手にはない豊かな発想力や技術力があるからだろうと見ています。こうしたことから同社では今後も積極的に中小企業との連携を推進していこうとの意向です。

 重点4分野への参画も
 もとよりスピード経営は産業構造の目まぐるしい変化への対応という側面からも求められている姿勢。ナノテクでは基礎研究がいつ大きなビジネスとして化けるか予断を許さないだけに時々刻々と移り変わる状況へのスピード対応がさらに勝負を分けるといえるでしょう。その点では三井物産が見るように中小製造業が有利な立場にあるのは間違いないところです。

 またナノテクは高度技術の集積でもあります。1社の技術でカバーするには自ずと限界があるものです。そこに連携の余地があるわけです。現在、開発中の直径500ミクロンクラスのマイクロカテーテルの場合、カテーテル、コーティング、センサー、アクチュエーターの各メーカーの高度な技術がなければ、完成はおぼつきません。高いオンリーワン技術を持っていれば、中小製造業でもそこに参画の道が開かれるのは間違いのないところでしょう。

 このようにナノテクは中小製造業にとって大きなビジネスチャンスとなります。スピード経営に高い固有技術という持ち前の強みを生かしていけば活躍の場は広がる一方です。

 折しも経済産業省では03年度より新重点4分野(情報家電・ブロードバンド・IT、健康・バイオテクノロジー、環境・エネルギー、ナノテクノロジー・材料)に政策予算を大胆にシフトし、30にも及ぶ研究開発プロジェクトを立ち上げました。これが一つの大きなチャンスとなる可能性もあるでしょう。

 ナノテク・材料はもちろんのこと、ほかの分野もよくよく考えると、全てナノテクがからんだプロジェクトだからです。ここに向こう3年間で年間当たり500億円の予算がつきます。しかも参画する大手企業も同等の資金を拠出するマッチングファンドですから、年間1000億円もの市場が創出されるというわけです。そのなかから、アウトソースされる部分もかなりあるはずで、関連技術があれば飛躍の足がかりが築けるかも知れません。大きな関心を持ってアプローチしてみるのも一つの手といえるでしょう。