著名者インタビュー
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 2001/3
加速するネット社会〜ITが変えるビジネスの未来


科学技術ジャーナリスト
多摩大学教授
那野比古(なのひこ)

本名、井上一郎。昭和11年2月25日生まれ。
 
岡山県出身。東京大学理学部卒業後、新聞記者を経て昭和57年科学技術ジャーナリストとして独立。
平成元年より多摩大学教授に。現在、同大学で教鞭を執るかたわら日本ベンチャー学会副会長、財団法人ベンチャーエンタープライズセンター理事・審査委員なども務める。専攻分野はコンピューターおよび知的所有権。
 
著書に「日米コンピュータ戦争」(日本経済新聞社)「SISは企業を変える」(講談社現代新書)「わかりやすい液晶のはなし」(日本実業出版)など多数。「先端特許大戦争」(NTT出版)では平成6年に第10回日刊工業新聞技術科学図書文化賞を受賞。

 
 加速するネット社会〜ITが変えるビジネスの未来
 1993年の商業利用の開始以来、爆発的に普及したインターネットを軸にハイピッチでIT(情報通信技術)革命が進展しました。そうした状況下、従来の概念を超えたさまざまなビジネスモデルが登場し、特にネット上にオープンさせたバーチャルモールを拠点に売り手と買い手とをダイレクトで引き合わせるマッチングビジネスなどは日の出の勢いで版図を広げ、未来市場として大いに有望視されています。事実、IT先進国の米国ではこのマッチングビジネスはすでに巨大マーケットを形成し、自動車業界を中心として流通構造を180度転換させる牽引役となっているほどです。

 このように今後もますます深化の度合いを強めていくネット社会を背景としてIT化も格段と進み、その影響によりビジネスシーンもまた革新的に変貌を遂げていくことは間違いありません。そこで今回は、「加速するネット社会〜ITが変えるビジネスの未来」とのテーマのもと、これまでの動きを踏まえたうえで、IT時代における事業モデルの将来像を探っていくこととします。

 

 ネットワーク中心の企業戦略 “SIS”がITのルーツ
 1990年代に入ってからよく耳にするようになったITは、すでに日本でも80年代にSISという名で存在していました。SISとはStrategic Information Systemの略で、日本語に訳せば戦略的情報システムという意味です。このSISはコンピューターを核としていた企業の情報戦略を通信ネットワークに重心移動させようというもので、当時としては非常に画期的なアイデアでした。またSISはネットに参加するすべての企業や顧客にメリットをもたらそうという発想も取り入れられており、その点でも斬新性に富むものだったといえるでしょう。

 このネットワークとメリットの共有化というコンセプトのもとに企業戦略をいち早く進めたのはアメリカン航空でした。70年代後半のことです。いまや米航空業界でユナイテッド航空に次ぐ地位を築いている同社も当時はまだ中小の航空会社の一つにすぎませんでした。そこで経営基盤強化のための足がかりとして取り組んだのがSISの考えに基づいた航空チケットの予約システムだったというわけです。

 それまで旅行代理店に置かれていた予約システムの端末は代理店ごとに方式がバラバラで、チケット発行までかなりの手間がかかっていました。アメリカン航空はそれをいち早くネットワークでリンクさせ、一つの方式で予約できる仕組みに変更したのです。代理店としてはより簡単に空席情報を瞬時に把握すると同時に即予約可能ということで、作業量やコストの大幅削減を実現させることとなりました。利用客としてもすぐにチケットを手に入れられるという利便性がもたらされたのです。当然ながら、このシステムは全米の多くの旅行代理店に一気に普及し、アメリカン航空はこのネット化のパイオニアメリットを享受して成長の足がかりとしたのです。

 

パラダイム転換で 飛躍したアメリカン航空
 ところが同社はそれだけで良しとしませんでした。その予約システムをベースに一種のパラダイム転換を図ったのです。要するに“空席埋め業”との発想のもと、航空券のみならず、ホテル、レストラン、劇場、レジャー施設など旅行関連のチケット予約を一つの窓口でできるようにシステム拡張したのです。これにより、利用客にとってはますます利便性が増大するとともに、商売する側にとってはマーケットを一段と広げるチャンスともなりました。このシステムがさらに全米に普及していったのはいうまでもありません。これがアメリカン航空の快進撃の原動力であり、今日の地位を確立させた主因なのです。

 しかしながら当時のネットワークシステムはまだ専用の通信回線を利用していることから、大変なコストを負担しなくてはいけない状況でした。したがって他社が同じような仕組みを導入しようとしてもリスクが大きく、なかなか真似のできる代物ではなかったのです。ところが90年代に入ってインターネットが加速度的に普及、SIS時代から本格的なIT時代を迎えるに至り、アメリカン航空と同様の考えに基づいたビジネスが容易に展開できる土壌が形づくられるようになりました。

 

 将来性に富むモデルとして 脚光浴びるインフォメディアリー
 ITがビジネスとしてようやく成立し始めてきたのは90年代の後半になってからです。先鞭をつけたのが鉄鋼業界でした。各社協力のもとにネット上に企業モールを構築し、売り手と買い手のマッチメイク市場を形成するという新たなビジネスモデルを誕生させたのです。Metal site.comというウェブで、98年に設立されました。これは新たな鋼材流通の場としてにわかに注目を集めるようになり、取引量も急速に増加、現在、会員数2万社以上にも及び、月間取引数量も約25万トンもの規模を誇っています。

 この鉄鋼関連のサイトの成功が呼び水となって、その後、米国ではよその業界も相次いで共同サイトを立ち上げるようになり、いまやこの手のビジネスはまさに隆盛の勢いといった感です。ケミカル業界のe‐chemical.com、電子部品業界のchip center.comがその好例といえるでしょう。こうしたマッチメイクビジネスを本場米国では“インフォメディアリー”とも呼び、従来の流通構造を大きく変える起爆剤として期待が高まっていると同時に、IT化の波に乗って次々と新たな事業形態が登場するなかでもとりわけ将来性に富むモデルとして脚光を浴びているのです。

 インフォメディアリー(Infor‐mediary)とはInformation(情報)とintermediary(仲介)とを合わせた造語で、インターネットで売り手と買い手との情報を仲介し、商品売買を成立させて手数料を得るサービス方式のことです。買い手にとっては商品の選択肢が飛躍的に増えるとともにメーカーと直接取引することでより安く購入できるという利点が発生します。一方、売り手にとっても販売チャネルが広がるとともに消費動向が把握できるという恩恵がもたらされるのです。

 まさにマーケットに参加する者はだれもが大きなメリットを享受できるわけで、その指向性はアメリカン航空の発想と気脈を通じているものといえるでしょう。そこにこそ実は、IT時代におけるネットビジネス発展のキーワードが隠されていたというわけです。実際、インフォメディアリーは3010億ドルにのぼるとされる米国のインターネット経済のうち、582億ドルとすでに約20%近くを占めているといわれています。また、99年時点で300社ほどであった参加企業数も今年中には1万社を超えるとの予想もされているほどなのです。したがってこのインフォメディアリーがさらに一大勢力として成長し、ネットビジネスの一つの未来像を形成していくことは間違いないといっても過言ではないでしょう。

 

 日本でも中小を中心としたマッチメイクビジネスが台頭
 遅ればせながら日本でも最近になって、IT時代の牽引役としてインフォメディアリーへの関心が高まり、その動きが徐々に活発化してきているようです。

 先に述べた米メタルサイトとの提携により、伊藤忠商事、丸紅、住友商事などが日本メタルサイトを昨年9月に設立、メーカーから最終ユーザーまでの鋼材取引をカバーするマッチメイク市場を開設しました。まだ着手したばかりということで、現在の会員数は約100社で本格始動までには至っていないものの、近い将来には市場流動性をもたせながら、会員数を400〜500社に伸ばしたいとしています。この分野ではほかにも、三井物産や三菱商事などが参加するスマートオンラインや、新日本製鉄系の日鉄商事などが出資する鋼材ドットコムが立ち上がっており、熾烈な競争を繰り広げながら鋼材流通を変革させていくものと期待されているようです。

 製造業の世界でもインフォメディアリーへの取り組みが本格化してきています。代表格は東京・葛飾を中心とする中小製造業の若手経営者が98年に設立したNCネットワークです。もともとはCAD/CAMのデータ交換のために立ち上げたエクストラネットだったのですが、技術情報検索サービスなど随時機能強化を図りながら、会員数を伸ばし、昨年秋には金属加工品の受発注ができるマッチングビジネスにも事業の裾野を広げることにしたのです。現在、会員となる中小製造業は約5800社で、1年間の発注総額を約8億円と見込んでいます。

 中小ネットといえば、製造業企業データ検索システムとして99年にスタートしたSMETも注目株でしょう。中小製造業が集中する東京・大田区が全国の自治体・商工会議所に呼びかけて発足させたもので、現在、登録されている企業データは国内最大規模の5万社にも及ぶということから、今後の活動ぶりは目が離せないところです。

 

 数は力。コラボレーション型サイトの開設が賢明策
 このように日本でもインフォメディアリーの動きが本格化の兆しを見せています。特に中小製造業にとって頼もしいのは、何といっても同業者が協力しながら他に先がけてインフォメディアリーの世界を広げていることです。そこにネットビジネスを展開していくうえでのヒントが隠されているといえるでしょう。

 お気づきのように、最大のポイントは自社でだけでやろうとはしていないことです。はっきりいって個別にホームページを立ち上げたところで、新規受注はまず無理でしょう。やはり数は力です。複数の会社で協力しながらコラボレーション型のサイトを開設するのが賢明の策といえるでしょう。参加企業が多ければ、それだけ情報量も増し、検索する側にとっても魅力が増します。前述したインフォメディアリーの成功要因のように受注額が安いとか、具体的なメリットを付加していくことも肝心です。もっとも現実的な選択肢としては、先行しているインフォメディアリーのサイトに参加するということも考えていいでしょう。

 いずれにせよ、ネットの世界は先手必勝です。一刻も早くITによる武装化を進め、電子取引の場に参戦することでビジネスチャンスを広げていかれることを期待しています。