著名者インタビュー
メニュー前ページ次ページ |

 2002/9-10
中国パワーと日本の中小製造業の生き残り戦略


中国ビジネス・コンサルタント
筧 武雄 氏
1981(昭和56年)年一橋大学経済学部卒業後、横浜銀行へ入行。在行中、北京大学留学、同行北京事務所開設・初代駐在、海外経済協力基金(現国際協力銀行)出向などを経験。退職後コンサルタントとして独立。現在、チャイナ・インフォメーション21の代表も務める。

主な著書に『最新版中国投資・会社設立ガイドブック』『中国進出失敗・トラブル事例集』(いずれも明日香出版)など。
 
 中国パワーと日本の中小製造業の生き残り戦略
 世界の工場として、また可能性を秘めた消費大国として目覚ましい発展を遂げつつある中国。米国経済をはじめ欧米主要国の景気が減速していくなかにあって、今期も7%台のGDP成長が見込まれるなど、底知れぬパワーはいささかも衰えず、一人勝ちの様相すら呈してきています。この勢いが続けば、将来的には日本を抜いて世界2位の経済大国になるとの予想もあるほどです。
 こうした"チャイナ・ショック"が現実味を帯びてきている状況下、わが国の産業界には悲観論があふれています。しかしいたずらに悲観論を振り回してみても問題解決には結びつきません。冷静に事態を分析して未来に向けての戦略を構築すべき時にあるといえるでしょう。
 確かに国際競争力の低下に加えて、中国への生産移転と産業空洞化は紛れもない事実ですが、自動車産業はいまだに世界のトップレベルにあり、家電や半導体製造装置など日本企業のグローバルマーケットにおける占有率も依然として大きいものがあります。先端技術や製造技術の開発能力も高く、経営改革の断行や新たなビジネスモデルの構築によっては"中国の脅威"を跳ね返す余力は十分に残っているといっていいでしょう。
 そこで今回は中国パワーの現実を見据えたうえで、日本の製造業はどう対処していけばいいのか、特に中小製造業に的を絞ってその生き残り戦略を考察することにしてみます。

 

 進む日本の対中輸出と投資

 1995年をピークに下降曲線を描いていた日本の対中輸出や企業進出がここ数年、再び盛り返しており、その背景には昨年12月の中国のWTO(世界貿易機関)加盟があります。
 輸出企業から見た場合の魅力は何といっても関税率の大幅引き下げです。WTO加盟以前から準備段階として暫時引き下げを実施し、現在は全品目の平均関税率を17.5%と10年前に比べて半分ほどの数値になっています。さらに引き続き税率低減を敢行し、日本の得意分野である自動車・家電製品などは2005年までを目処に現行の半分に縮小して、特にパソコンは25%の税率をゼロにすると約束しているほどです。
 こうした動きを好感して対中輸出は著しく増加傾向にあり、2002年1--5月の輸出額は前年同期比12.8%増の3兆573億円と、対米輸出(6兆1821億円)の49 %の水準まで膨らんできています。さるシンクタンクの分析では対米輸出は今後も頭打ちの反面、対中輸出は年率10%の効率で伸びると予測しており、2010年には対中と対米が肩を並べるとの見方を示しているくらいなのです。
 WTO加盟を機に中国政府は関税率を大幅に引き下げただけではなく、外資導入に向けての規制緩和や優遇措置を打ち出しています。例えば中国の企業と自由取引できる貿易権を近い将来に海外企業に付与するという公約は象徴的な出来事として注目されています。日本の対中投資や企業進出が急増している背景を探る際には、こうした中国側の改善努力が見逃せないポイントとなります。また、2000年にトヨタ自動車の合弁生産が天津で認められたことも日系企業の進出を後押ししていると見ていいでしょう。

 

 脅威論だけでは語れない

 安くて良質な労働力に加えて、上記の事情から外資の技術移転や生産拠点づくりも旺盛で、世界の工場としての中国の地位も飛躍的に向上してきています。データで示すとそれは一目瞭然で、とりわけ家電分野が凄まじいペースで伸びてきていることに注目しなければなりません。
 中国が世界市場に流通する製品をどれほど生産したかという2001年の統計では、テレビ29%、DVDプレーヤー49%、パソコン23%、エアコン37%、電子レンジ33%、洗濯機25%、冷蔵庫26%となっており、この比率はまだまだ伸びると指摘しているのです。欧米や日本に遅れをとっている自動車や造船、鉄鋼、重電分野も近い将来には追いつく可能性は高いとしています。
 このように、WTO加盟を境に開放政策を一段と進めている中国パワーの勢いは止まるところを知らず、日本にとっては経済の相互依存という観点からもはや無視できない存在となっています。製造業におけるライバル国としての脅威も日増しに高まってきており、中小製造業の皆さんの間でも戦々恐々といったムードが蔓延している感は否めません。
 こうした流れのなかで、日本から物作りがいずれなくなってしまうのではという悲観論もあちこちで聞こえてくるようになってきました。しかしこの問題を論じるとき、真っ先に考えなければならないのは単純に中国脅威論だけで片づけてしまってはいけないということです。
 近年における日本の産業空洞化や国際競争力の低下はグローバル化の流れのなかで起こっていることを念頭に置かなければなりません。要はここ10年の世界的な環境変化に日本の製造業が対応していけなかったからこそ、今日の事態を招いたと認識すべきなのです。したがってまず何よりも肝心なポイントはこの視点に立ったうえで、内なる改革を進めていくことでしょう。

 

 出ていく技術と残る技術

 それでは中小製造業としては具体的にどう対処していくべきか、解決への糸口をいくつか考えていきます。
 第一には日本から出ていく技術と日本に残る技術とをしっかりと見極めることです。現在、中国に出ていっている技術のほとんどは移転容易な低コストの量産化技術です。これはグローバル化の流れとして当然の帰結であり、このフィールドで中国と競い合っても意味がありません。
 一方、多品種少量の先端技術や研究開発分野は技術移転や部品調達の困難さもあって、なかなか出ていきません。液晶表示装置やプラズマテレビなどの家電製品のほか、医療や環境ビジネスなどの分野がそうで、将来的にも日本に残る可能性が高いといわれています。したがってこうした方面の独自の先端技術でノウハウを身につけることが、生き残りのためにまずは必要な戦略といえます。
 よそには真似のできない高度な技術力を維持・開発していることにより、引く手あまたの企業はわが国には多数、実際に存在しています。なかには中国メーカーから医療機器の生産を受注したユニークな例もあるほどです。大田区の企業グループは、中国のシリコンバレーといわれる北京・中関村のベンチャー企業と結腸に治療薬を注入する機器を3年間で約2000台生産する契約を正式に結んだと聞いています。
 確かに中国企業も最近、日本の物作り技術に着目し、必要に応じて積極的に活用しようとの動きが目立ってきています。こうした注文をこなすための受け皿づくりを進めるのも賢明な策といえるでしょう。

 

 現地進出も一つの手

 さらに大胆な戦略としては優れた量産化技術を持って中国に進出してみるという手もあります。いまや海外に出ることが自殺行為という時代ではありません。グローバル化の流れのなかでとらえると、むしろ必然といえなくもないでしょう。日本企業が中国に行かなければ、安い労働力は欧米に使われるだけで、国内に残っていてはますます防戦一方になってしまいます。
 中国に進出した日本の大手メーカーは部品の現地調達を急速に進めています。労賃をせっかく安く抑えても、日本から中間財を持ってきては物流費や関税で結局は高コストな物作りになってしまうからです。しかし一方では現地で日本と同じレベルの部品を調達することはまだまだ難しいのが現状です。だからこそチャンスがあるのです。
 もちろん、準備は周到に進めなければなりません。中国の情報を収集して自社の物作り技術が最大限に生かせる方法は何かを慎重に考えます。物流や供給先、人材確保などの点からロケーションも入念に選択しなければなりません。広大な中国で事業の核となってもらうキーマンは進出先の出身者であることがベストです。できれば、日本留学の経験があることが望ましい。かなり多くの中国人が日本企業や大学に留学している現状を考えれば、そうした人材を探すのはさほど難しい作業ではないでしょう。
 キーマンとなる優秀な人材を探し当てたら、まずは日本で1、2年を目安に徹底して教育すべきです。その間、足がかりとなる現地工場を絞り込み、ライセンス契約を結ぶ手はずを整えていきます。それで日本で教育したキーマンを中心に現地での技術教育を施し、生産を軌道に乗せていくことです。それがある程度うまくいったら、今度は合弁化を図り、本格進出していくというのが成功への一応のシナリオとなるでしょう。
 いずれにせよ、進出すると覚悟を決めたら、目先のことで一喜一憂するのではなく、10年くらいの長いレンジで戦略を展開していかなければなりません。生活習慣や文化も違えば、社会体制も大きく異なる国です。じっくりと腰を落ち着けて臨むことが成功への王道になるのは間違いありません。