著名者インタビュー
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 2002/1
不況期の社内点検と商品開発力 再構築マニュアル


経営教育コンサルタント・中小企業診断士
若山 貞二郎氏
早稲田大学卒。総合商社、自動車メーカーにて営業、販促、広報などを経験。
日本能率協会にて指導部長を務めた後、独立。現在は、経営教育コンサルタント、中小企業診断士、全日本能率連盟公認マネジメントコンサルタント。

著書は「革新型問題解決のすすめ」(PHP研究所)、「“仕事の定石”テキストブック」(日本能率協会)など多数。
 
 不況期の社内点検と商品開発力 再構築マニュアル
 ますます厳しさを増し、今まで経験をしたことがない不況感。このようなときにこそ社内を徹底的に再点検し、見直しを図らねばなりません。コア技術を再構築し、製品開発力を付加することは、今後の中小製造業にとって企業としての“生命力”となるもの。中・長期的なビジョンを念頭に置きながら、“次の一手”を準備したいものです。次にその手法を順次述べていきます。再構築マニュアルとしておつかいください。

 

 1 経営理念および開発コンセプトを明確化する
 国に憲法があるように、企業にもいかなる製品をつくり、いかなる満足を顧客に提供できるかを明確にした「経営理念」が必要です。全社員の行動の指針、心の拠り所となり、取引先など関係先との信頼関係を構築するもとになるからです。

 「理念」の表現として、かつては「和」、「誠実」、「責任」、「奉仕」などメンタルな表現が目立ちました。最近では「快適さ」、「夢」、「感動」、「楽しさ」を追求し、「未来を創造」、「創意と技術」「共生と信頼」など、目的や成果指向のキーワードを使う企業が増えています。

 これを開発コンセプト(思想)にブレイクダウンします。わが社の技術は他社にない特徴を持っている、よそ(特に大手企業)ではできないこと、やらない分野に特化していること、人真似ではない独自技術に基づいて開発をしている、という「個性」や「差別性」を発掘し、強調するのです。また、効率性や小回りがきくこと、短期開発、納品の「スピード」をアピールします。操作性や安全性や省エネ、リサイクルなど、ひとや環境に対する優しさ、メンテナンスをふくめた経済性などトータルの特徴を強調することも有効です。

 経営理念および開発コンセプトをことある毎に全社員に徹底しておくことも必要です。各種会議、資料、Eメール、研修、インフォーマルな対話の場などいくらでも機会があります。粘り強く反復して交信し、「経営理念」を全社的な合意に導いておくことが大事です。

 

 2 外部環境のトレンド分析とニーズ、ウォンツの把握

 企業を取り巻く環境の流れとして、大きくは国際、行政、経済、技術、社会、自然現象があります。今日ではグローバル化、資源・環境、IT、高齢化などがキーワードです。一方、より身近なものとしては顧客、競合他社、仕入先、取引金融機関からの影響があります。これら外部環境の中で、自社に有利なフォローの風=「機会要因」と逆に不利となるアゲインストの風=「脅威要因」のそれぞれを把握、分析します。その事象が自社に与える影響の度合いを評価し、今後の推移を見通します。また、自社がその現象に対していかなる対応策―「機会」の活用、「脅威」の防御―を取っているか、またその成果は出ているかをチェックします。期待通りでない場合は早速対応行動を起こすか一層の強化をする必要があります。

 この一連の作業を通じて、社会および顧客のニーズが把握できます。「顧客満足」の観点から次のことを確認します。今いかなる商品を期待しているか―具体的には品質や性能、価格や納期への要望、さらには関連情報、保守管理への期待などです。

 ニーズは顧客からの具体的な要望、すなわち引き合い、見積り、図面やサンプルの要請などで掴めます。ただしこれらは競合他社も同時に行っています。そこで強調したいことは「ニーズ」の把握だけでは不十分だということです。顧客の心中にある潜在的な欲求=「ウォンツ」の把握が必要なのです。

 「ウォンツ」とはまだ漠としていて明解なイメージができておらず、口頭や書面で表明ができない状態を指します。しかし、顧客は本音では「ウォンツ」を具体化したものが「欲しい」のです。あったら「助かる」のです。将来戦略に役立つものとして期待しているのです。顧客や社会の水面下にある「ウォンツ」をいち早く察知、把握すれば、競争に先手を打つことができかつ有利に展開できるのです。そのためには日頃から顧客企業の購買窓口だけでなく、設計、製造、営業部門とのコンタクトや直接エンドユーザーからの情報収集も不可欠でしょう。また相手の悩み、懸案事項、要解決の問題点の推察、検討中の方針・戦略内容を把握するために大いに工夫や努力が必要です。ここが最大のキーポイントになります。

 

 3 自社優越特性の確認と経営資源の集中化
 自社固有の特性には2面あります。

 一つは「優越特性」です。競合他社に比べてすぐれていて実績があり、評判もよいものです。 もう一つは、逆によそより劣る弱点、問題点、寄せられた苦情の「劣位特性」です。
 要素としては、方針・戦略、日常の諸活動の機能、組織・管理体制、ヒト・モノ・カネ、技術、情報などの経営資源、さらには伝統、イメージ、ノウハウなど無形の資産があります。これらを随時棚卸し、点検、評価を加えておかねばなりません。

 評価項目としては、特性の範囲、強弱の程度、保有の継続性、さらに、現状の長所活用度、短所改善、解消策、その成果状況が考えられます。このうち特に「優越特性」の活用を重点的になすべきです。折角の宝物、持てるツールですから、使わない手はありません。業績悪化や倒産後に悔やんでも遅いのです。技術、商品、システムなど持てるパワーを顧客に提供し大いに満足してもらうのです。外部環境の「機会」に乗じて他社に勝る資源、エネルギーを集中的に投入し、ニーズやウォンツ充足のためにフル活用することです。必ずや短期間に効果があらわれるはずです。

 

 4 開発につながる発想の視点

@ 問題意識・高く広い視野:何ごとにも強い関心、好奇心を持つことが大事です。現状を改善したい、レベルアップしたい、より良いものをつくりたい、窮状を打破したい、という強い問題意識が必要です。さらに、一段高い所や遠くから離れて自業務、自社を客観的にながめると柔軟な思考ができ、今までにない何らかの気付きが得られるでしょう。

A 従来の慣行・実績への疑問と否定:今までのやり方でよいか、この技術やシステムしかないか、伝承したものに執着していないか、実績や成功例のみを頼っていて大丈夫か。従来のものや現状への疑問、否定から思わぬ発見があり、道が開けるものです。

B 既成概念・固定観念からの脱却:もっとも恐れねばならぬことはマンネリであり惰性です。従来のものは、確かに慣れていて、安心できかつ楽であり、まわりも納得させやすいものです。しかし創造は過去の破壊です、既成打破です、現状からの脱皮なのです。思い込み、ひとりよがりの満足、固定的で融通のきかぬ思考は発想を阻害します。

C 専門外、異質な分野とのコンタクト:自分の担当、専門分野だけで考えても限度があります。自社、自業界内での思考も平凡になりがちです。物事を異質な目、別の切り口から見直し、第三者など違う世界と変化からの刺激を受けることが効果的です。

D 夢と遊び心、感性の活用:何らかの夢やロマン―それも大きく意外性のあるものを持ち続けたいものです。健康、安全、環境、くらしのレベルアップなど社会的に貢献できるものがよいでしょう。また論理性、デジタル思考だけでなく、感性、アナログ発想からもユニークな発見が期待できます。

 

 5 開発に適した組織風土と人材開発

@ オープンでフレキシブルな風土:風通しがよく、形式や規制で制約されず、根回しや駆け引きが無用で、自由で率直な議論と提案が許される組織がのぞましい。また一旦立てた方針も、面子にこだわらず、状況の変化に応じて柔軟に変更することです。

A 現場主義、自主裁量:第一線の担当者を尊重し、可能な限り権限と裁量を与え自主性を持たせたいものです。現場こそ顧客に近いからです。生の情報、ホンネの要望を掴んでいるからです。また自分で判断し、現実的な対応をするため解決が早いからです。

B リスクへのチャレンジ:現在は思わぬ変化に直面しています。想像しなかったようなことが起きています。今までの考えややり方が通り難くなっています。大胆に新規のことに挑戦する必要があります。当然リスクが伴います。失敗もするでしょう。長期的かつ広い視野で寛容さをもってのぞみ、必罰、減点主義でなく極力加点主義を取り入れ、次なるチャレンジの機会を与えて欲しいものです。

 

 付)「製品開発のための現状、仕組み―チェックリスト」

@自社の経営理念および商品開発へのビジョンは明記されかつ全社員および関係先に徹底し合意を得ているか

A企業を取り巻くトレンドおよび顧客のニーズ、その背後にあるホンネのウォンツを積極的に把握しているか

B他企業が出来ないこと、やりたがらないことを手掛け、独自の特徴のある商品づくりで他社との差別化をはかるように努めているか

C日頃から顧客からのクレーム、苦情その他指摘事項を素直に受け止め、対策を立て改良や新商品開発に活かしているか

D商品開発の際、自社の経営機能、資源、風土の中の優越特性を発揮できるような対象に取り組んでいるか

E重点開発テーマ、優先順位を決め、そこに人材、資金、原料、設備、技術など経営資源、エネルギーを集中的に投入しているか

F経営トップや管理者が一方的に開発テーマを決めずに、第一線の担当社員の意見や提案 を尊重、活用しているか

G開発担当部門だけでなく、製造、営業、サービス、管理部門などの社員も企画、開発活動に参加させているか

H社内に、既成概念、現状維持、形式主義、セクショナリズムなど、新規の発想を妨げる風土を醸成しないようにつとめているか

I社内組織は自由闊達に議論ができ、自主的に新規でリスクあることにチャレンジでき、前向きの失敗なら許されるような風土になっているか