著名者インタビュー
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2004/9-10
景気牽引役のデジタル家電
〜その現状と今後の展望〜


日本総合研究所 調査部 副主任研究員
枩村 秀樹氏

1969年福井県生まれ。東京大学経済学部卒業後、旧住友銀行(現三井住友銀行)に入社。社団法人日本経済研究センター出向を経て、株式会社日本総合研究所調査部に出向して日本経済の分析・予測を担当。各種レポートを公表するほか、週刊エコノミスト等の雑誌にも執筆。

 景気牽引役のデジタル家電
 〜その現状と今後の展望〜

 昨年から回復局面が鮮明になり、勢いが増す日本経済。大きな原動力の一つとなっているのがデジタル家電です。個人消費を刺激して急ピッチに市場を拡大するとともに企業の旺盛な設備投資を呼び込み、景気を牽引しています。強含みの需要を見込んでの設備投資は活発で、各電機メーカーとも生産能力の増強に力を入れています。周辺の電子部品・デバイス産業への波及効果も大きく、今後も中長期的に見て景気浮揚の一つの柱になっていくのは間違いのないところでしょう。

 ただ短期的には懸念される材料がないわけではありません。商品によっては市場の伸びが鈍化してきているものもあるからです。例えばデジカメ。カメラ映像機器工業会の調べによると、デジカメの6月の国内出荷台数が1999年12月の統計開始以来、初めて前年同月比を下回ったことが明らかになったのです。下げ幅も12%程度が見込まれるといいますから、頭打ちの状況が顕著で、潮目の変化が訪れている分野といっても過言ではありません。

 このように未来市場としては依然と有望視されながらも一部不安要因も浮上してきたデジタル家電産業。関係者にとってはその行く先を慎重に見極めながら事業を展開していく必要も出てきたといえます。前回のITバブルの例も忘れてはならないところです。

 そこで今回は景気牽引役としてのデジタル家電産業の現状と今後の展望について、日本総研調査部の枩村秀樹氏に伺ってみることにしました。

 健全で好ましい回復局面
 ここ数年の間ににわかに脚光を浴びるようになったデジタル家電。確たる定義はありませんが、厳密にいえば液晶を中心とした薄型テレビとプレーヤーやレコーダーなどのDVD商品がこれに相当するでしょう。ただ各種統計ではデジカメやデジタルビデオ、携帯電話、カーナビなどもカウントしているのが現状です。

 こうした広い意味でのデジタル家電が急速に台頭して、一大マーケットを形勢したことが今回の景気拡大局面を創出させる一つの要因になったのです。とりわけ薄型テレビ、DVD、デジカメのいわゆる新三種の神器の貢献度は大きいものがありました。

 もっとも電気機械産業全体で俯瞰した場合、I T 景気と呼ばれた前回の回復局面(1999−2000年)よりも爆発的な勢いに欠ける嫌いがあるのは事実。前回は世界的なI T 投資意欲の高まりを背景に通信機器、コンピューター需要が力強く拡大して、電子部品・デバイス生産も急増するなど電気機械産業全体の活性化につながったからです。一方、今回は通信機器、コンピューター需要は弱く、デジタル家電を中心とした民生用のみが突出しているだけで、電気機械全体の生産を押し上げるまでには至っていません。その点、広がりは限定的といえるのです。

 実際、こうした勢いの欠如は日銀短観の業況判断DIにも現れています。直近の7月には電気機械の景況感は4年前と比べてもまだ低い水準にあるのです。

 ただ前回の回復局面はある意味ではバブルで行き過ぎた感があったために、その反動として大きな調整局面が訪れたのも事実です。需要は急激に萎んでいるところに生産設備を増強して供給力を高めたことから、需給バランスが大きく崩れて強気の設備投資に走ったメーカーは大打撃を受け、調整に半年もかかりました。したがって総観すれば、今回の回復局面のほうがむしろ健全で好ましい状況といえるのかも知れません。

 短期的には効果も限定的
 爆発的な広がりはないとはいえ、景気牽引役としてデジタル家電が一定の役割を果たしているのは明らかです。翻って今後の展望はどうかといえば、短期的には引き続き限定的で、中長期的には有望と判断できるでしょう。それは以下の理由からです。

 まず短期的な側面から述べると、限定的と見るのは爆発力のある有力な商品が乏しいためです。DVD関連ではプレーヤーの代わりに高付加価値商品としてレコーダーが勢いを増しており、ハードディスクに保存可能で、基本的には録画用テープは必要ないなどの利便性から売れ行きは好調に違いありませんが、期待の持てるのは唯一これだけで、ほかには見当たらないのが現状です。

 一方、デジカメは主要ターゲットである20−30代では普及が一巡し、今後はある程度年齢の高い層に一眼レフタイプの商品を売り込んでいくしか、いまのところ、手立てがありません。携帯電話も同じく市場は飽和状態で、基本的には買い替え需要で活路を開いていくのが残された頼みの綱なのです。

 最も期待されている薄型テレビも短期的にはどうか。1、2年で急激に伸びるとは考えられません。やはり一番の大きな問題は相変わらず価格が高いということです。高度成長期のカラーテレビ需要は相対価格(月収で測った小売価格)の下落とともに普及率が高まっていきました。この時期の相対価格下落はテレビ価格の下落以上に月収増効果のほうが大きかったのも見逃せない点です。一方、現在の経済環境のもとでは月収の伸びはさほど期待できませんから、相対価格の下落も緩やかにならざるを得ず、普及は限定的にならざるを得ないのです。

 高価格のわりにはDVDレコーダーのように付加価値の高さが実感できないというのも難点でしょう。画面が大型化して画質もよくなってきてはいますが、それが購入の強い動機になるのか。これだけ騒がれながらもブラウン管タイプのテレビも相変わらず底堅い売れ行きを示しているのが何よりの証拠です。したがって薄型テレビも当面は強い牽引力とは成り得ない状況といえるでしょう。

 輸出競争力復活で前途明るく
 ただし、中長期的には見通しは明るいと思われます。薄型テレビについては逆の観点からすれば、爆発的な普及力のない分、今後10年間は確実に安定的に市場が拡大していくことが有望視されるからです。コンピューター、携帯電話がすでに一定の市場規模を確保しているのに比べると、拡大余地はまだまだあるという見方も成り立ちます。

 また薄型テレビに限らず、デジタル家電は基本的には高付加価値商品であり、日本の技術力が活かせる分野というのも好材料でしょう。実際、国内市場で圧倒的なシェアを占めているのに加え、貿易面でも安定した強みを発揮しているのです。

 例えばテレビの輸出入はこれまで大幅な入超が続いていました。ところが2002年以降の輸出急増をテコに足許では出超に転じているのです。主因としては欧米・アジア市場での需要増勢で薄型テレビの輸出が増加していることが挙げられます。注目すべきは輸出増加の要因で、数量増加要因よりも価格(単価)上昇要因のほうが大きく寄与している点です。つまりこの事実は日本企業が得意とする高付加価値分野での市場創出により、低価格品と対抗できる輸出競争力を回復できたということにほかならないのです。

 このように国内市場を中心とした需要拡大とともに、日本が強みを持つ製品で輸出競争力を復活させたということは景気の足腰が強化されつつある現状を如実に物語っています。

 日本の優位性崩れない分野
 デジタル家電は部品集約度が高いだけに電子デバイス分野への生産波及効果が大きいのも見逃せない側面です。2003年の電子デバイス生産の内訳を見ると、フラッシュメモリー、液晶素子などデジタル家電向け製品の生産が急拡大しています。

 こうした分野もまた現在でも日本メーカーが強みを発揮している分野です。デジタル家電の中核部品となるシステムLSIやCCDといったデバイスは日本企業がほぼ独占している状況にあります。これら半導体は技術集約度が高く、単なるコスト削減で対抗できるようなものではないため、今後も日本企業の優位性は崩れないでしょう。

 さらに電子デバイス需要の拡大により半導体関連の設備投資も一段と活発化しているのが現状です。足許でも半導体製造装置の受注が急増、設備投資の押し上げ効果も顕著になっているといえるのです。

 このようにデジタル家電主導の回復は、@内需を中心に中長期的な市場拡大が見込まれる、A部品集約度の高さ、技術面での優位性から電子デバイスへの生産誘発が大きい、B個人消費・輸出だけでなく設備投資も大きく押し上げるといったことを背景に息の長い持続性が期待できると断言できるでしょう。

 もっともデジタル家電に対する期待が過度になることに対しては細心の注意が必要です。中長期的には展望は明るいとはいえ、そのなかでも景気循環の上げ下げという波は繰り返されていくのが常だからです。強気な姿勢で過剰に供給力を増強させるのは禁物。必ず揺り戻しがくるものです。

 現状でも中間材としては在庫がかなり積み上がってきている状況で、値崩れの不安も出てきています。先行きを見ながら絶えず慎重な対応が望まれるところです。特に中小製造業には反動のしわ寄せが及びやすいもの。そうならないためにも過剰生産への意識を常に持つとともに、業務範囲の明確化や景気の波の影響を受けにくい製品への取り組みに力を入れていく必要があるといえるでしょう。