著名者インタビュー
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2006/5-6
カイゼンを続けるヒトづくりが
世界に伍するモノづくりを可能に


ものつくり大学
 田中 正知教授

1941(昭和16)年生まれ。67年名古屋大学大学院工学研究科航空学コース修士課程修了後、トヨタ自動車工業入社。93年本社生産調査部部長に就任。協力メーカーへのトヨタ生産方式の指導と改善、特にグループ内全車両生産工場に組立工程管理システムを展開する。95年本社物流管理部長に就任。全世界物流ネットワークの構築と改善に携わる。2000年ものつくり大学開設に伴い社命により製造学科へ転籍、現在に至る。

 カイゼンを続けるヒトづくりが世界に伍するモノづくりを可能に

 「純利益連続1兆円超え」、「自動車生産台数世界一へ」と快進撃を続けるトヨタ自動車。多くの企業がトヨタを見習えとトヨタ方式=カイゼンの導入を試みているが、なかなか成功に結びついていない。

 トヨタ出身の教授第1号として、ものつくり大学で教える田中教授に日本のモノづくりに対する幅広い認識とトヨタ方式のモノづくりに対する考え方、カイゼンの取り組み方を伺った。

 弱みはモノづくり軽視の歴史と家庭
―― まず日本のモノづくりについてどのようにお考えでしょうか。

田中 日本人がモノづくりに優れているというのはとんでもない間違いだと思います。日本人はモノづくりしかできない、世界で生きていくためにはモノづくりで生きていくしかない民族なのです。なぜなら武力で敵を征圧したり、手段を選ばず金儲けに邁進する民族ではない。ひたすら真面目に誠心誠意、和をもって尊しとなすという生き方の民族だからです。こうした生き方で世界に伍していくには、モノづくりしかないのです。

 しかし歴史を振り返ると士農工商に代表されるようにモノづくりの人間の身分は下に置かれていた。文系は偉く、理系は下人という位置付けです。この流れは今も脈々と続いており、大学に入るにも文系の方が上、会社でも事務系の方が給料が高い。だから理系や技術系に人間が集まらないのですね。

―― 子どもはモノづくりよりサラリーマンにしたいという親が増えています。

田中 その傾向が強いですね。日本では家庭でモノをつくらなくなった。おにぎりさえもコンビニで買うものになってしまって、母親のつくったおにぎりは偽物だと思っている子どもがいるという。

 欧米ではハウスキーピングは自分の仕事。他人に任せません。休日になると一家そろって家の手入れをします。家庭には工作機が一式そろっていて、何でも自分でつくってしまう。奥さんは家の中を片付け、窓の周りを飾って楽しむ。オリジナルなモノづくりが彼らのアイデンティティなのです。

 モノづくりにはさまざまな経験知や雑学が必要です。日曜大工もできないヒトにモノづくりができるわけがないですよ。

 諸外国の巧妙な戦略がモノづくりの脅威に
―― 日本は良いモノをつくって外貨を稼ぐしかないのに、内なる問題に加えて海外との競争も激しくなってきました。

田中 80年代日本は経済的に米国に勝ちましたが、このとき米国は日本の構造を徹底的に調べ上げ、弱点を見つけました。それがホワイトカラーの弱さでした。そしてモノづくりでは日本に勝てない、日本に勝つためには戦略でい
こう。製品はつくれない、いや、つくらない。日本に安くつくらせて、どのように商売するか。あるいは製品をつくっている会社にどのように投資して、その人間をうまく使うかという戦略に焦点を絞りました。そして日本がTQCで品質を追求している間に、アメリカはTQMでホワイトカラーの仕事を追求し、戦略を練ることを重視していった。オフィス内でも単に事務処理をするだけの人間は、ブルーカラーです。当然給料も真のホワイトカラーのみ厚遇する。そして一部の優秀なホワイトカラーが練った戦略で、日本のスーパーコンピュータやウインドウズに対抗してつくられたトロンを裏からつぶしていった。米国の技術がとりわけ優れていたわけではなく、米国のホワイトカラーの戦略なのです。それ以後、みごとに米国は復活しました。

 実は中国も同じ手を使っています。日本をうまく利用しているのです。さらに定年後の日本の技術者を中国が日本の5〜10倍の給料でヘッドハンティングしている。在職中から技術者に目をつけていて、各社の人事部よりもっと個人評価がしっかりしているという話もあります。大学の先生も米国に出て行っているのが現実です。モノづくりをする人間を大事に処遇しないと、どんどん国外に流出してしまいます。

 カイゼンとは変化するヒトの「生きざま」
―― さて、この10数年も成長を続けているトヨタのモノづくりの土台とは何でしょうか。

田中 トヨタのカイゼンをまとめ上げたのは元副社長の大野耐一氏ですが、彼はヒトが生まれたときの位置から自分の意思で1歩でも上に上る、または自分の思う方向に動かしていく、これが「生きざま」であるといいたかったらしい。動かすとは新しい壁をぶち抜いて自分との戦いを始めることです。同じモノを同じ方法でつくっていて、それでいいのか?季節変動もある、材料が変わる、お客さんが変わるなど1つ変動があれば、新しい方法にトライしながらつくり方を広げていき、少しでも良いモノをつくる方向にもっていかなければいけない。

 こうして集中して取り組むことで、1つひとつの仕事に意味を込めること、それが短期的な意味でのカイゼンであり、長期的にいうと自分を成長させ、生きがいにつながる。まさに生きること、変化することがカイゼンなのです。

 そして会社としてベクトルを合わせて、1つひとつカイゼンを行っていく雰囲気づくりが会社の責任であり、これをよしとする人間を育てることがヒトづくりなのです。カイゼンを会社の中にどうやって活かしていくか、そして皆が共存共栄していくかというところに本当の意味があるのです。

 意欲を引き出す目標がカイゼンを進める
―― 今日より明日が1歩でもよくなりたいという動機付けがあってカイゼンが進んでいくということですね。

田中 そうです。しかしヒトは千差万別なので、なかにはやりたくないヒトもいる。そこでトヨタでは最後にグループ(課)目標にします。社員は必ず帰属意識をもっているもので、個人的な意識は高くなくても、皆がいいと思うならやろうとなります。いかに組織目標にもっていき、皆で行おうという雰囲気にするかがポイントです。

 また、トヨタの場合は固定給に加えて能率によって毎月変動する歩合給を取り入れていました。歩合給は生活に響くほどではないが、増えたらうれしいし、減っていたら悔しい。これも組織目標達成の動機付けになります。目標は到達できるようなものにして、誰でもすぐに計算できるようにしておくことです。

―― 先生は中小製造業との接点も多いと伺いましたが、中小企業ならではの問題点もありますか?

田中 1つはオーナー社長による所有と経営の一体化です。社員の意欲を引き出し、会社が発展していくためにも、所有と経営を分離し、優秀な手腕のある人材に経営を任せることが必要だと思います。

 もう1つは将来のビジョンが不明確なことです。これから生き残るために差別化が不可欠ですが、その方向性があまり見えません。経営者自らが積極的に講習会などに出向き、情報を収集し、そして社員と一緒になって議論していく。そんな会社になれば将来は明るいものになるでしょう。