4. 曲げ順
曲げの順序を決める時には、金型段取りが少なくなる工夫や、最終工程まで曲げる工夫、マテハン(材料取り回し動作)の効率性、重要寸法、金型との干渉等を検討して決めます。
ここでは、「精度を出しやすくするための曲げ順」を中心に記述いたします。

曲げ順の考え方
  1.重要寸法を出すためには…
  2.鈍角突当ては精度が出ません
  3.切り起こし曲げの注意点
  4.サッシ形状について
  5.「捨て寸法」って何?
  6.「合わせ」って何?
  7.「ステップベンド」って何?
  8.「限界寸法」って何?

 

曲げ順の考え方
【1.重要寸法を出すためには…】
重要寸法とは、その製品の機能を満たすためや、外観を整える為に必要で特に重視される寸法です。
では、重要寸法と曲げ順、突き当ての関係を見てみましょう。

右図のような形状を曲げる場合、2通りの曲げ方があります。
[曲げ方1]


[曲げ方2]



材料の展開寸法に誤差がある場合は「曲げ方2」の方が、重要寸法を考慮した曲げ方といえます。
残り寸法部が重要寸法に指定されていると、展開長のバラツキや前工程の寸法誤差による「しわ寄せ」がきてしまいます。
可能な限り、重要寸法部を突き当てゲージに直接当てて曲げることが必要です。

 

【2.鈍角突き当ては精度がでません!】
通常、曲げは材料の外側から曲げていくのが一般的ですが、下図のように外側の曲げが鈍角(90度以上)の場合は、曲げ順の工夫が必要です。

[曲げ方1]


[曲げ方2]

「曲げ方1」では、2工程曲げ時、突き当てゲージ面に材料が不安定に当たるので寸法のバラツキが生じます。また、1工程の角度 誤差が2工程目の曲げ寸法に影響してきます。「曲げ方2」のように鈍角曲げを最後に曲げた方が、A部の精度は出やすいでしょう。

『あま曲げ』
鈍角曲げがある製品で、高い精度を要求される場合は「あま曲げ」という曲げ方をする場合もあります。鈍角部を突き当てると 寸法のバラツキを生じる為、はじめに必要な曲げ箇所を鈍角に曲げておき、後で突き当てを使用しないで曲げる手法です。
他にも、1種類の金型で加工できないときや、加工部がダイホルダー、テーブル、フロントカバーに干渉する場合などに使用します。

 

【3.切り起こし曲げの注意点】
材料中央部の切り欠きを曲げることを「切り起こし曲げ」と呼びます。
通常、曲げは材料の外側から行なっていくのが一般的ですが、下図のような製品の場合は曲げ順に工夫が必要です。



図1の製品を外側のフランジA部から曲げた場合、B部の切り起こしを曲げる時にはA部の曲げた部分を突き当てて曲げることに なります。A部の曲げ寸法にバラツキがあると、B部の寸法にも影響が出てしまいます。
B部の寸法を出したい場合、可能な限りB部を先に曲げ最後にA部を曲げたほうが良いでしょう。
前工程の影響を受けなくするため、なるべく材料の端部を突き当てることが必要になります。
また、その方が後の寸法調整も容易に行えます。外側から曲げてしまうと、A部の寸法を修正するとB部もその分寸法が変わって しまい、気付かずに、不良品の山を作ってしまうこともあります。



図2のように切り起こしの向きが逆の場合は、曲げ時に材料の跳ね上がりが逆になりますが、この場合はB部の寸法調整をするとき に注意が必要です。B部の立ち上がり寸法を大きくしたいときはL値をマイナスさせ、寸法を小さくしたいときはL値をプラスさせ ます。

【4.サッシ形状について】
サッシ形状は長物の曲げであり、多工程になることが多いので、曲げ順の決め方が難しい製品の1つになります。

[曲げ方1]


[曲げ方2]

「曲げ方1」ですと、3工程目の突き当て時に1工程目の折り返しがダイ背面に干渉します。
このようなサッシ形状の場合は、曲げ順の工夫が必要です。
「曲げ方1」のように材料の外側から曲げていく場合、一箇所修正する時は、その工程のみ修正すればOKです。
しかし「曲げ方2」のように内側から曲げる場合は、1箇所修正すると他の辺にも影響が出てしまいます。
場合によっては、1箇所の修正の為に、3〜4箇所もデータを変更しなくてはなりませんので、他辺の寸法が変わってしまったことに気付かずに不良品の山をつくってしまうこともあります。

サッシ形状の製品を曲げる場合、寸法や角度のちょっとした左右差が製品全体の寸法に大きく関係してきますので、注意が必要です。曲げ形状の中でも「複雑」と言われている形状の1つですので、慣れていないと精度調整に多くの時間がかかってしまいます。

 

【5.「捨て寸法」って何?】
一般的に、曲げ加工では重要寸法側の精度を重視すると、残り寸法が図面通りにならない場合があります。
そのような時は、製品の機能や外観上に問題がないフランジ部分で、しわ寄せを調整します。

図面中にカッコ付きの寸法表記がある場合は、それほど重要視されない部分ですので 「捨て寸法」としてしわ寄せの調整を行えますが、極端に図面と違ってくる場合は 展開長の見直しや、使用しているV幅の見直しが必要になります。
展開長のバラツキがある場合は、手前ゲージで必要でない辺を先に曲げてしまう「捨て曲げ」 という方法もあります。

 

【6.「合わせ」って何?】
箱曲げを曲げる場合、通常であれば長辺長さ分の金型が1本あれば加工できます。
しかし、製品の「合わせ」によっては、短辺、長辺と2種類の長さの金型を使用して曲げる場合があります。
この「合わせ」は図面上から判断します。

黄色フランジを先に曲げてしまうと青フランジを曲げる時に、スプリング バック分の角度が入り込めません。
この場合、青フランジから先に曲げるほうが良いでしょう。




【7.「ステップベンド」って何?】
金型をいくつか並べて、工程毎に金型を渡り歩いて曲げる方法を「ステップベンド」といいます。
NTベンダーには「金型位置指示」という機能があり、バックゲージのYL・YRを使用して金型位置の指示を行ってくれるため 複雑な金型段取りも簡単に再現できます。

機種の条件
突き当ての横移動・片荷重・角度左右差などの問題のため、ベンダーのタイプによってはできないものもあります。


シャットハイトの問題
種類の違う金型を並べて使用する場合は、その金型のシャットハイトが同一であることが条件です。また、再研磨金型はシャットハイトが低くなるので注意が必要です。

 



【8.「限界寸法」って何?】
曲げの加工可否や曲げ順を考えるときに大きく関わってくるのが「金型による制限」です。金型との干渉や最小フランジ寸法を考慮しなくてはいけません。

パンチによる制限
当然ですが、曲げフランジがパンチと干渉してしまうような曲げはできません。また、曲げ完了時にはスプリングバックの関係から実際のワ−ク曲げ角度が図面指定角度よりも入り込んでしまいますので、その分も考慮して金型選定を行う必要があります。 パンチの選定には主にリタ−ンベンドグラフ、テンプレ−トなどを使用しますが、分割パンチ断面を紙にトレ−スしたものでも利用 可能です。リタ−ンベンドグラフについては、Ai−Linkの「金型ワ−ルド」ペ−ジにてダウンロ−ド可能です。
「BEND-CAM」や「NTベンダ−」では立体画像での干渉チェックが可能ですので、金型選定には非常に有効です。

「深い箱曲げ」などの場合、両サイドの“立ちフランジ”と中間板との干渉を 考慮する必要があります。
可能であれば「高ハイトパンチ」の使用、中間板位置を“立ちフランジ”よりも 内側にずらす などにより、対処できる事があります。

 

パンチによる制限
各辺を複数回同一方向に曲げる“箱曲げ”においては、通常“耳付きパンチ”を 使用します。
フランジ形状および寸法は、この“耳”の部分の形状による制約を受けます。

グ−スネックパンチなどを“逆付け”した場合、金型がバックゲ−ジ側に張り出す格好となります。
この状態で短いフランジ長の加工をした場合、テ−ブル上昇(下降)に伴いパンチでバック ゲ−ジを押してしまう事があります。

バックゲ−ジ高さの調整で干渉を防ぐ事も出来ますが、パンチ・ワ−クの形状によっては曲げ られるフランジ長の制限が出てきます。

 

ダイによる制限
使用するダイのV幅によって曲げられる「最小フランジ長」は変わってきます。
「最小フランジ長」については、プレスブレ−キ専用金型カタログ「STANDARD TOOL」の圧力表のなかで、「項目b」として記載されています。

また、「Z形状曲げ」の2工程目については「ダイ奥幅+板厚+片伸び」が「最小フランジ長」 となります。


2Vダイ使用時(奥溝使用)にはダイ手前側の幅が結構ありますので、下向きバ−リングや 成形加工、あるいは前工程の曲げフランジによって加工上の制約を受けます。

図のような場合は1Vダイを使用する事によって加工出来るようになります。

ダイホルダーによる制限
「Z形状曲げ」の2工程目などの場合、垂れ下がりフランジの長さは「ダイホルダ−高さ+ ダイ高さ」によって制約を受けますが、「あま曲げ」を行う事により1工程目のフランジ長 を伸ばす事ができます。